ぴくりと、鹿島くんの眉が訝し気に、そして何より不愉快気に寄った。


「生徒会なんて、入らないよ」


 だからもう一度繰り返す。鹿島くんはその目元を歪ませて、「へぇ」と私を嘲笑う。


「いいんだ、菊池を捨てて」

「雅を捨てるなんて言ってない」

「俺が何もしないとでも?」

「だって、私が私を差し出せば済むんでしょう?」


 少しだけ鹿島くんは面食らう。流石にそれは予想外だったと――私はもっと私の保身に走るのだと――思っていたようだ。実際、その予想は当たっていた。きっと旅行中の松隆くんを見なければ、私は生徒会に入れという要求を呑んだだろう。雅に何もされないためには、御三家を裏切っても仕方がないと。月影くんは事情を知ってるし、何も知らない他の二人でも察してくれるかもしれない。御三家を傷付けてしまうことにはなるけれど、それでも、雅は見捨てたらきっと死んでしまうから。

 ただ、松隆くんが気付かせてくれた。私は、自分のことを可愛がり過ぎた。


「私が幕張匠だってバラせばいい。ひとたび公言されれば、私が自分から告白する。そうすれば雅は私を庇う必要なんてなくなる。御三家は私を守り切れないけれど、私が黙ってれば問題なんてない。学校で居場所を失ったって、別にいい。あと一年と半年、登校する日を数えれば学校生活なんて一年くらいかな。その程度、どうにでもなる」


 月影くんの誕生日プレゼントを買いに行ったあの日、私は鹿島くんに脅されたと思っていた。でも違った。私が自分を可愛く思い過ぎたから、鹿島くんに脅されたと感じただけだ。大切なものを天秤にかけさせないと、それは脅してることにはならない。

 御三家と関わったせいで、私の中で、何かが狂ってしまったんだ。御三家に大事にされて、私はおかしくなってしまった。