「……こんにちは」

「やぁ。間宮さんはちゃんと伝言を伝えてくれたんだね、よかった」


 やっぱり桐椰くんの件も鹿島くんの仕業じゃん。分かってたとはいえ、相変わらず不気味なその笑顔には寒気が走る。扉をぴしゃりと占めると、閉ざされた空間に二人きりになってしまったようで一層不気味さが増した。


「……私に何の用?」

「この間会った時に伝えてはいただろ、また登校日に会おうって。忘れられてそうだから呼び直しただけ」

「あんなので会う約束をしたとは思ってなかったし、今のじゃ答えになってないよ」


 窓際と扉の前、距離は教室丸ごと一つに等しい。それでもこれ以上近付きたくないと思うくらい、鹿島くんは不気味だ。本当、この人を前にすると不気味以外の言葉が出て来ない。そのせいでまともに目も合わせられないで、辛うじてそのネクタイの結び目に視線を合わせる。目を合わせられないんだと気付かれたくない一心でそう頑張ってたのに、どうやら私の内心はお見通しらしい。クッ、と不気味な笑みを浮かべてみせる。


「そんなに俺のこと怖いの?」

「……顔を見るのもイヤなだけです」


 正直に言えば怖いし、でも怖がってるなんて思われたくないし、何も答えないことが肯定になると思ったからそれらしい言い訳を探して口にした。実際嘘ではないと思う。恐怖心に隠れて私自身が気付かないだけで、鹿島くんに嫌悪感を抱いているとは思う。というか、抱かないはずがない。


「……それで、ご要件はなんですか、生徒会長。できればさっさと言いつけて帰してくれると嬉しいんですけど」

「なんだ、残念。少しはお喋りを楽しもうと思ったのに」

「御三家の敵のリーダーと話すことなんてないですよ」

「御三家のリーダーに好かれてる身としては?」

「え?」


 驚いてその顔を見てしまって――しまったと気が付いて目を逸らす。でも目が合った瞬間に鹿島くんは笑った。今の言葉は、どういう意味だ。松隆くんの告白を鹿島くんが知ってるはずがない。雅の件は裏で糸を引いてる人物がいて、その人物のことを鹿島くんが知ってるからこそ知っていただけだ。松隆くんのことがバレてるはずがない。