とんでもなく広い家のご子息・松隆くんはまるで他人事のようにコメントする。私はきょろきょろとまるでおのぼりさんのように庭を見回す。噴水って公園以外にもあるんだ、なんて馬鹿みたいな感想を抱く。庭師さんだって当然のように植木の手入れをしていて、松隆くんも当然のように「ただいまー」なんて声を掛ける。この家、おかしい。


「……桐椰くんと月影くんも最初はビビった?」

「ガキがビビるかよ……。いい遊び場だなってくらいにしか思ってなかったぜ」


 いい遊び場、だと……。見上げて見渡すほど大きな家は、本当にマンションかと見紛う広さだ。いや、マンションと言っても足りないかもしれない。ただし、完全に洋館だ。最早城とでもいうべきなのかもしれないけれど、格式高そうな立派な洋館。確かにあまりに広すぎてお手伝いさん一人じゃ管理しきれない……。


「豪胆なガキだったんだねぇ、桐椰くん」

「うるせぇよ! 大体いつまで掴んでんだ鬱陶しい!」

「だって怖いじゃん! はぐれたら強盗と間違われて外にポイされそうじゃん!」

「まあそうだね」

「やっぱり!」

「だからって俺にしがみつくことねーだろ」

「ドキドキしちゃう? ごめ痛っ」


 殴られた挙句に頼みの綱の腕を失った。仕方なく松隆くんの後ろにぴったりとついていく。門からやや離れた玄関の鍵は指紋認証式だった。最早ファンタジーの世界だ。重たそうな玄関扉には獅子の飾りがついていて、もしかしてここは金でできてるんじゃ……、なんて足りなかった想像力を働かせてしまう。じっと扉を熱心に眺める私に「迷子になりたくないんじゃないの、桜坂」と声をかけてくれた松隆くんは、使用人の方々にはご丁寧にただいまと言ったのに、家の中に足を踏み入れても何も言わなかった。桐椰くんと月影くんは小さな声でお邪魔しますと呟いた。玄関は一体何人が一斉にお邪魔するんだろうと思うほど広くて――あれ、そもそも洋館なんだから上履きなんてないんじゃ、いやでも一応ここ日本だし――私にはさっぱり理解できない置物があったり絵が飾ってあったり、キャパを超えてしまったせいで凄いのかただの趣味なのかよく分からない玄関だった。ただ、中は左右と奥に広がっているから、広いの感想は間違いない。

 他に気になることといえば、悪戯っ子のように静かに動く御三家だ。