「……コイツ、昼間のヤツか……」

「え?」


 言われて見れば、のろのろと起き上がるその人は昼間絡んできた大学生っぽい人の一人だった。桐椰くんに向けて法律がどうだこうだと幼稚な喧嘩を売って来た人。ということは、と残る三人にも目を向ければ、確かに一人の顔には見覚えがあった。私の腕を掴もうとしたから思わず振り払ってしまった人……。松隆くんに言われて相手も気付いたらしく、不愉快そうに眉を吊り上げる。


「あぁ? お前、俺にボール当てやがったヤツかよ……」

「その節はどうも」


 海でお姉さん達から聞いた話を思い出す。豊大生は結構ヤバいよー、とお姉さん達は冗談交じりに笑っていた。以前ニュースになったことがある学生さえいたと。ニュースになったことがあるからといって必ずしもそこの大学生全員が危ないとはいえないけれど、その話が本当なら、警戒しておくにこしたことはないのでは? わざわざスマホを囮に女の子を誘い込む人が恒常的にこんなことをやってないとどうして言える? 恒常的にやってるなら、それなりにマズイことをしているのでは? そしてそんなマズイことに慣れてる――抵抗感など、ないのでは? あっというまに頭の中を駆け巡った自分の想像で身震いする。松隆くんは平然としているけれど、逃げるほうが正解なのでは?


「何だ、昼間言ってたの、こんなガキかよ」


 赤い帽子の人でもない、残る一人がせせら笑う。四人の中で一番大柄だった。ガラガラの低い声で、なんとなく不気味な笑い方だった。そう思ったのは、その風貌もあるかもしれない。二十歳そこそこだとは思うのだけれど、髭が濃いせいで老けて見えた。


「金髪のほうの彼女だと思ってたんだけど、っかしーな?」

「ほーん。大人しそうな顔してやるじゃん。丁度いいや、ちょーっとその子貸してほしいんだけど?」

「無理って言ったらどうすんの? 俺、今わりと機嫌悪いんだよね」

「『で、何。用事ないなら切るけど』」

「あるよ! ちょっとトラブルがあって、だから迎えに来てほしくて、」


 桐椰くんの声ではっと我に返ったけれど、この人達のことを下手に危ないとかヤバイとか評すると刺激してしまうかもしれないので小声でそう言うに留めた。だからだろうか、電話の向こう側の桐椰くんが真剣に受け止めてくれる気配はない。


「随分強気じゃん? まー、コイツ投げ飛ばしたってことはなんかやってたんだろ?」


 ふん、と大柄な一人が笑った。


「折角だから教えてやろっか、喧嘩とスポーツは違うんだぜってこと」