「だから桐椰くんと比べなくたって――」
かと思えば、繋いでいた手が離れて、腰と背中に回った手に抱き寄せられた。ドクン、と心臓が鼓動する。サッ、と周囲の視線が一瞬ずつ向けられるのを感じる余裕なんてなかった。食べ終えたりんご飴の櫛を持つ手が宙ぶらりんになるくらい、力の入れ方が分からなくなった。
「あ……、の……」
「……好きなんだよ」
耳元で、泣きそうな声の告白が聞こえる。
「本当、限界なんだよ」
体が、震える。
「俺とは付き合えないなら、こんな好きにさせないでよ」
言葉を返すことなんて、できない。
「……馬鹿だよね、俺も。わざわざ前回断られたのと同じ状況作り出して告白するなんてさ」
ゲン担ぎの逆じゃん、と自嘲気味の笑いが零れている。そう、同じだ。鹿島くんにキスされた日の帰り道と同じ。なんならあの日だって、告白しながら、キスを上書きしたいなんて言いながら、鹿島くんのキスを怖がった私に何もしなかったのは、松隆くんの優しさだ。
不意に哀しくなった。なんで、ここまでしてくれる人を、好きになれないんだろう。心のどこかで、私が松隆くんを好きになることはないって分かってる。どうしてだろう。それは烏滸がましいにもほどがある悩み。ぎゅう、と目を瞑った。
「……ごめんなさい」
「謝らないでよ。辛くなる」
「……松隆くんは何も悪くないから」
「何も悪くないのにフラれるなんて悲しすぎるだろ」
「……私の問題だから」
――死にたい? よしりんさんは、私にそう訊いた。
――ほっとけよ、俺が死ぬことくらい。雅は、私にそう言った。
「何の問題があるっていうんだよ……」
――なんで亜季だけが生きてるの? お母さんは、私にそう嘆いた。
「……私にも、分かんない」
なんで、私だけが、生きてる必要のない人間なんだろう。