「吉野達見つけたら逃げられると思ってる? そしたらノーカンだからね」
「……松隆くん本当性格悪い」
お金を出すタイミングで離れていた手が繋ぎ直された。今度は掴むんじゃなくて繋いでいる。松隆くんの手が冷たいのか、体温の上がった私の手が熱いのか分からなかった。ゆったりと歩き出した松隆くんは昼間の機嫌を幾分直したどころか上機嫌だった。
「……ねぇ松隆くん」
「はしまき食べる?」
「……いただきます」
松隆くんの手頭から差し出されたはしまきに噛り付けば、見た通りのソースの味がするだけで期待以上も以下もない。私がもぐもぐと咀嚼している間に松隆くんもはしまきに噛り付く。抱いた印象は、松隆くんとお好み焼きって似合わないなぁと、その程度だったし、その程度だろうなとは思っていたけれど……。
「……松隆くん、私が食べたほうをわざわざ選んで齧らなくていいんだよ」
「無意識だよ。流石に気持ち悪くない、それ」
「私の中で松隆くんは変態だって勝手な偏見があるから」
「本当に偏見だね。俺に対してどんなイメージ持ってるの、桜坂は」
ぺろっと舌で唇についたソースを掬いとる様子は普段の松隆くんのイメージとはちょっと違う。
「顔がすごく綺麗な代わりに本当に腹黒くて、頭が回るくせに誰かを嵌めることにばっかり使って、仲良しの友達――桐椰くんと月影くん以外には本心は見せない感じ。あ、いつだって余裕があるのに桐椰くんとは何かにつけて張り合う」
「……最後の何?」
心外そうな目が向けられたけど、その通りだ。じゃなきゃビーチバレーに負けた程度で拗ねたりしない。鹿島くんにテニスで負けたときは落ち込みこそすれ、拗ねているようには到底見えなかった。