――それか。このタイミングで、それか! サッと顔から血の気が引いてしまった。
「え……、まさかリーダー……」
「そのまさか」
「いや、その、それは、流石に……なんといいますか、ね?」
確かにそのカードを切るなら付き合いを申し込む場面かとは思ったけれど、松隆くんのプライドがそれは許さないはずだ。きっと松隆くんはプライドが高いけれど、それは見栄や虚栄ではなく矜持であって、この人は内実の伴わない自分を受け入れず、それどころか伴うまで自分を認めないくらいの人であるはずだ。多分だけれど。だからそんな提案はしないはずだと、高を括っていたのに、まさか……!
「暫く俺と二人で祭り回ってくれない?」
「……え」
思わず構えてしまっていたのに、予想を少しだけ外れた要求にぱちくりと目を瞬かせる。ふ、と松隆くんは可笑しそうに笑った。いつもの愛想笑いではない純粋な笑顔だった。
「なに、その顔。彼女になれって命令されるとでも思った?」
「いや……、松隆くんのプライドがそんなこと許すはずないとは思ってたけど……思いの外細やかだから……」
「細やかってことは聞いてくれるってこと?」
「……すいませんそれとこれとは別で」
しまった、口が滑った。珍しい笑顔につられてしまった。落ち着かなくて、思わず自分のTシャツの裾を自由なほうの手で握りしめる。
「……だって、今そんなことしたら、桐椰くんに悪いじゃん……」
「こういうのは先に行動した者勝ちだと思うけどね。抜け駆けだし狡いとは思うけど、そういうものじゃないの」
「……だからちょっと悪いことには変わりないじゃん」
「そもそもアイツは土俵に上がってないって言ったろ」
それは、そうだけれど。ぐっと押し黙る。なんなら桐椰くんが私に向けているのは庇護欲みたいなもので、恋愛感情とはきっと程遠い。それどころか、桐椰くんが追いかけているのは初恋の人だという線が濃厚だ。ただどれもこれも可能性に過ぎなくて、桐椰くん自身がはっきりとした答えを出すまでは何もしないでおくべきでは――ないのだろうか。ただそれだけ桐椰くんを気に掛けることは、桐椰くんを依怙贔屓してるみたいに見えるのだろうか。