「んじゃアンタ達、もう小学生じゃないんだからはぐれないでよ。いやはぐれてもいいから騒がないでよ。騒がれたら面倒くさいし」
「誘拐犯みたいな台詞ですね」
「連絡一本寄越してくれたらいーわ。アナタは一応それでも女の子なんだからすぐに連絡するのよ」
「気遣ってるのか貶してるのか分かりにくい言い方はやめてください」
アナタ達は地図も読めるでしょ、とよしりんさんが確認すれば三人は「そうですね」「まぁ困りはしないよね」「方向音痴一人しかいねーな」と三者三様に頷いた。唯一の女子でありかつ方向音痴であると発覚したせいでよしりんさんが嫌そうな顔をする。
「うわ……アナタはぐれたら二重の意味でヤバイってこと? やめてよ面倒くさいわね」
「私も好きで方向音痴なわけじゃないんで……。ていうかいつもなら隙がないのは駄目だなんだ文句言うじゃないですか」
「アタシに迷惑かかるものは別よ」
「オネェさんシビアすぎ……」
あの二人の面倒を見てるだけ文句を言うな、と言わんばかりによしりんさんの目が冷たくなる。だからって私の面倒見を怠らないでください、お願いします。
でもなんだかんだ面倒見の良いオネェさんなので、よしりんさんは歩きながらよく振り返ってくれる。私がはぐれていないか確認してくれているらしい。ついでに松隆くんと桐椰くんがお互いにそっぽを向いているのも確認しているらしく、その表情は毎回面倒臭そうに歪んでいた。こればっかりはどうしようもない。
「ねぇ、アナタお祭りであれやりたいこれ食べたいみたいなのないの?」
「えー?」
そんな険悪ムードの一行となってしまっている中、不意によしりんさんがなぜか私に怪訝な顔を向ける。確かに私はただきょろきょろ目だけでお祭りを堪能しているだけではある。
「まぁ……飼う当てのない金魚を掬いたがる年齢ではないですし、期待値次第ではありますけど確率に頼って籤を引くよりも欲しいなら直接買う性格ですし、」
「うーわー! 可愛くない! 最悪! そこまで可愛くないと思わなかった!」
何も考えずに感じていることをただ返せば、よしりんさんの異形でも見るかのような目と叫び声が待っていた。下手したら軽蔑までいくほどの目だ。「うわ引くわー」とよしりんさんは額を押さえている。