「でも丁度いいとこに来たよね。今日お祭りあるよ」
「そういえばそんな話もちらっと……」
初日移動する車の中で聞いた。月影くんも松隆くんも絶対人混み嫌いなのに、と思った覚えがある。あと流石に浴衣はないわねぇ、と、何も用意していない私を責めるよしりんさんの声にも覚えがある。桐椰くんが寝ていたときだ。
「楽しんでいきなよー。あ、でも時々ガラ悪いのいるから注意ね」
「ガラ悪いの?」
「豊友大学って馬鹿な私立あんのよー、近くに」
「さっき絡まれてたんだって? 遼くんから聞いたけど。昼間からビール飲んで下手くそなナンパしてたら豊大生だろうなぁ」
私が指名したことで機嫌を良くしたのか、阪口と呼ばれたお兄さんが近くにやってきた。バレーをする気はないのか、はたまたもう出番は終わってしまったのか分からないけれど、パーカーを羽織っていて、落ち着いているように見えるのにどこか子供っぽい感じの人だった。愛想が良くて表情が豊かで人懐こい月影くんのようだ。……最早それは月影くんではないので、黒髪眼鏡の共通点があるということだけにしておこう。ついでにその阪口さんの言う特徴はさっきの人達にぴったり当てはまっていた。
「多分その豊友大学の人だと……でも面倒なだけでそんなヤバそうな人達には……」
この人達は普通の大学生だから、あの程度でもヤバそうに見えるのだろうか。何の自慢にもならないけれど、私や桐椰くん達が思い浮かべるヤバい人は、きっとこの人達から見ればただの犯罪者なのかもしれない。
「時々いるって話。ちょっとニュースになったこともあるんだけど、聞いたことない?」
「ないですね……」
「ま、このへんでヤバそうな大学生いたら大体豊大生だから。気を付けて」
「大丈夫でしょ、だって遼くんとマッツーは柔道やってたって聞いたし」
松隆くんが妙なニックネームをつけられている。多分「総二郎」は「長い」と一蹴されたのだろう。このお兄さん達の様子からだと容易に想像がついた。因みに阪口さん以外のお兄さん達は桐椰くんと月影くんと何やら楽しそうに話している。
「それにしてもいいなー、あのレベルのイケメン、うちの高校にほしかったなー……」
「私もあと三年遅く生まれたかった」
「あれが友達にいるとかそれだけで毎日がエブリデイだわ! いいなほんとに!」
そりゃあ毎日はエブリデイですとも、と心では思ったけれど言われるがままに頷いておいた。大学生のノリはよく分からなかったせいだ。私でこれだというのに、よく月影くんはたじろぐこともなく喋っているものだ。悪い人達ではないし寧ろ善い人なんだけど、どうにもこういう距離感は苦手だ。慣れない笑顔を浮かべながら――あぁ、なんて不意に納得する。納得した対象はよしりんさんにハグされて迷惑そうな顔をしていた。