「あっちです」
「案内してくんない?」
人攫いじゃん! 頭の中に浮かんだ言葉は妙に古臭くて月影くんの変な影響を受けてしまった気がした。ぶんぶんと首を横に振りながら「あの海の家ですよ!」と早口で答えるものの、当然人攫いっぽい人達なので「えー?」とわざとらしく首を傾げるだけだ。こういうときこそ保護者の出番でしょう!と慌てて振り向く前、丁度桐椰くんの腕が腰を抱き寄せてくれた。
「すいません、俺の連れなんで」
桐椰くんの腕に半ば抱えられている状態になってしまったとはいえ、ほーっ、と我ながら分かりやすく安堵する。確かに一人で歩くのは良くなかった。後で謝ろう。
「えー? さっきまで喧嘩してなかった、キミ達」
流石人攫い、そんなことを観察した上で私に声をかけたのか……! 心の中で少しだけ感心してしまったけれど、問題は二人が立ち去る気配がないことだ。
「いえ……、喧嘩してないです……」
「そう? その割には離れて歩いてたじゃん」
「仲直りしたんで」
桐椰くんも面倒な人だとは思ってるんだろう、口早に答え、行くぞとでもいうように私の腕を掴み直す。それでも、二人いるうちの赤茶色の髪をした人のほうが進行方向に立つ。サングラスをしているので表情が読みにくい。
「まーまー。暇なんだよね、丁度。昼前だし、一緒に飯でも食わない」
「友達待ってるんで」
「じゃあその友達も一緒にさ」
「男しかいないっすよ」
「えー? まぁこんな可愛い子いたら一人でも十分かー」
桐椰くんの目が可愛いって言われたからって絆されるなと言ってくる。分かってますよ私だって別にそこまで馬鹿じゃないですよ!