「水着可愛いじゃん。流石吉野が選んだ甲斐がある」
「……松隆くんに言われるのなんか複雑」
「これって解けるの?」
「ギャーッ!」
松隆くんの指先が腰紐を掴んだので思わず叫び声を上げてしまった、が、その瞬間、バァンッ、と私と松隆くんの間にピンポイントでバレーボールが飛んできた。全身が凍りつく。砂浜にボールがめり込んでいる。私が松隆くんから避難してなかったらとんでもない強さで当たってた。いや、松隆くんから避難したからこそ空いたスペースをターゲットに叩きこまれたのか……。
「悪いな。コントロールミスったわ」
そのどちらなのかは、桐椰くんの珍しく白々しい声でよく分かった。恐る恐る顔を向けた先の桐椰くんは、一生懸命笑みを浮かべているものの、口の端は震えてるし、そのこめかみにしっかりと青筋が浮かんでいる。ゾゾゾッ、と背筋が震えた。
「気を付けろよ」
「お前がな」
ボールを渡す松隆くんも笑顔なのに、お互い冷えきった声でなされるその応酬……。しかも一言ずつしか発してないのにその裏にある真意が容易に想像できてしまって恐ろしい。桐椰くんが試合に戻れば松隆くんは舌打ちする。
「わざわざ失点してまで当てにくるなよ」
「アナタが脱がせようとするからじゃないの」
「隣にあれば気になるじゃん」
「因みに解いても脱げませんからね!」
もう嫌だ、なにこれ。ていうか松隆くんが隣にいると危険な気が……。
「……よしりんさん、私と場所変わって……」
「俺の隣嫌なの、桜坂」
「じゃあ動かないから触らないでよ!」
再び気持ちよしりんさんの方へ避難した。よしりんさんは私と松隆くんを無視して「あー、これなら余裕で遼ちゃん達の勝ちね」と試合を観戦しているだけだ。その言葉の通り月影くんと桐椰くんは悠々と点を獲得していく。観戦している人達は「バレーやってんのか?」「あれはシロートだろ。運動神経がバリ良い」「高校生くらいやろ、可愛いなぁ」「フツーにイケメンじゃない?」と口々に褒めている。バラバラの方言が混ざっているので大学生のグループなんだろう。ただ全国共通なのか、桐椰くんか月影くんが得点したときには「キャーッ」と黄色い悲鳴が上がっていた。桐椰くんは最初は不機嫌だったけれど徐々に楽しそうな顔になってきた。