「ねぇ、幕張さんって幕張匠くんの妹とか?」


 顔を上げると、見慣れない女の子が私のことを覗き込んでいた。無言で見つめ返していると、私の返事を待つことなく「ほらー、ゼーッタイ違うってー」と叫びながら彼女の友達に顔を向け直す。その先にははたまた見慣れない二、三人の女の子がいた。教室内にいるクラスメイト達は、わざわざ別のクラスからやって来た有名なグループの女の子達に対して少しだけ迷惑そうな目を向ける。「来るとうるさいんだよなぁ、あの集団」とその目達は言っていた。でもどうにかしようとする人はいない。


「こんな子が妹なわけないじゃーん!」

「アタシがそう言ったじゃん? 幕張匠ってチョー強くてチョーイケメンなんでしょ? ナイナイ、幕張さん、苗字一緒なだけじゃん?」

「ねー! 雅もそう思うよねー」


 一人の女の子が一人の男の子の腕に絡みついた。相手の男の子は困ったように眉間に皺を寄せている。


「思うけどさー、俺連れて来る必要あった? 可愛い女の子の前にしか呼ばれたくないよ?」

「ちょっと雅ィ、そんなこと言ったら幕張さんに失礼じゃん? 眼鏡外せば少しは可愛いかもしれないよ?」


 黙って座っている私が鬱陶しかったのか気に食わなかったのかよく分からないけれど、一人の女の子が私の横っ面ごと眼鏡を弾き飛ばした。カーンッ、と床に響くプラスチック音に釣られるように視線を向け、のろのろと立ち上がる。アハハハハッ、とその子達は笑った。


「見たー? なぁに、あの顔……キモイんですけど」

「だから髪で隠してんじゃないの?」

「あぁー、伸ばしてるのってそのため? オシャレェ」


 ケタケタと可笑しそうに嗤う子達の前で眼鏡を掛け直す。それを傍観していた雅は呆れたようにその茶髪をくしゃくしゃと混ぜる。


「あのさぁ、可愛くないなら帰ろうよ。面白いもの見れるって言うから来たのにさぁ、俺ブスの泣き顔嫌いなんだよね。ただでさえブスなのがもっとブスになって惨めつーか見苦しいつーか」

「えー、ブスって誰のこと言ってんの、雅」

「そんなの一人しかいないじゃん。つか幕張匠は俺達にとっちゃカリスマ的ヤンキーなわけですよ? それがこんなのと兄妹とか、ましてや彼女とかさ。聞くだけうぜー話じゃん」

「確かにぃ」

「ね、だから目の前にいるだけでヤダ。もーやめやめ。俺帰る」

「えー? ちょっと雅ぃ」


 雅が踵を返したせいで、その取り巻きの女の子達は私の机の周囲から立ち去った。はぁ、と内心では小さく溜息を吐いて、でも表情は変えずにただじっと座り、休み時間が終わる残りの十分間を待った。