私のほうが筋の通ってない話をしていることは分かっていた。だから身勝手だとは分かっていたけれど、無償に苛立った。桐椰くんは何も知らないからそんなことを言える。鹿島くんは私に言ったんだ、バラされたくなければ嫌がらずに引き受けろって。それが何を引き受けることを意味するのかは分からないけれど、今のキスもそれに含まれてるなら抵抗を示すことなんてできるわけがない。どう考えても私を嫌ってそうな鹿島くんがこんなところで急にキスした意味は必ずあって、それでもその意味が分からない以上、深読みするのは当然の安全策だ。雅を守れない私にできることはそれだけだ。それなのに……、私だって望んでキスしたわけでもないのに、なんで桐椰くんにそんなこと言われなきゃいけないの。


「……お前と鹿島がどういう関係でもどうでもいいけど、俺達の側にいるのに生徒会長とキスしてんのは何なの?」

「……別に御三家を裏切ってなんかない」


 今まで何度となく聞いたその言葉を、なぜか鬱陶しく感じた。


「私が御三家と結んだ契約は、透冶くんの事件を暴くために生徒会に反抗することだけじゃん。あの事件の真相が分かったのに、なんで私が御三家と生徒会の対立に巻き込まれなきゃいけないの?」

「俺達の対立とは関係なくどうせ生徒会役員に嫌われてんじゃねーか、お前は」

「それは私が御三家側についたからだよ!」


 私が御三家側につかなければ雅はあんな目に遭わなかった。私は私のために御三家側についたんだから、この憤りが理性的じゃないことくらい分かってる。漸く見ることのできた桐椰くんの目には怒りに似たものが浮かんで見えた。だから益々苛立った。


「笛吹先輩の計画で襲われかけたのは御三家と生徒会の対立のせいだったけど、文化祭の日に軟禁されたのと、プールで溺れさせられそうになったのは御三家と仲良くしてる私への嫉妬のせいなんだよ!」

「それは知ってるけど、今そんな話はしてねーだろ。なんで俺達側にいるのに生徒会長とキスしてんだって聞いてんの」

「鹿島くんとキスしたら御三家に対する裏切りなの? 違うでしょ、私は鹿島くんとキスしただけで生徒会の味方なんてしてない。御三家に口出されることなんてない!」