菊池雅の隠れた相棒、卑怯だと言われようがなんだろうが構わない、木刀があれば負けなし、誰かを傷付けることも厭わない、例えば今回のリーダー格がされたように恨み上等の怪我を負わせてきた、正当化してくれる理由なんて何もない。それは今でも同じ。

 そう自己紹介しても、月影くんは何も言わなかった。非難を口にもしなければ、侮蔑を込めた目すら寄越さなかった。なんだか意外で、くるりと体を向けた。


「……私、月影くんはもっと御三家以外に冷たい人だと思ってた。デリカシーを理由に黙っててくれるなんて、優しいんだね」

「……馬鹿を言うな。たっだそれだけで、俺が君を庇い立てするわけないだろう」

「……だったらどうして?」


 まだ透冶くんの遺書のことを感謝してくれているのだろうか? だとしたらそれはもうしっかり御三家に対価を支払ってもらっていることだ、必要ない。そう答えようと口を開きかけたのに、月影くんが先に口を開いた。


「君が、蝶乃から遼を庇ってくれたからだ」


 そして、その口から出て来た言葉で、今度こそ口を噤んだ。


「遼を馬鹿だと未だに嗤うあの蝶乃に、遼を非難するのは筋違いだと……、優しい遼を理解できないお前が愚かなのだと、君は言ってくれた。盗み聞きしてすまなかった。敵の敵が味方といっているわけではない。そんな利害ではなく、君が蝶乃へ手向けた諫言(かんげん)だけが全ての理由だ。君は遼に誠意を尽くしてくれた」


 告白を吐露し終えたように、月影くんは微かに笑ってくれた。


「だから、君を信用しないというあの言葉を撤回しようと、君と蝶乃との遣り取りを聞いて決めたんだ」


 そして、いつだって私を罵倒してやまないはずの月影くんが、そっと、静かに頭を下げた。


「ありがとう」



 結局、ホテルに泊まることは選択せず、月影くんに連れられて駅に向かった。手を引かれるがままにホームに行けば、人のごった返す中でベンチを陣取り、松隆くんと桐椰くんと、その間に挟まれる形で雅が座っていた。顔が腫れているのを隠すためか、雅は少し俯き加減だった。お陰で前まで行っても、私に気が付いたのは松隆くんと桐椰くんだけだった。


「……、あの、」

「帰ろうか」