それだけのことのはずなのに、喉がからからに渇く。口を開けるのに、その告白をする決心がつかない。雅は私を見ないままだ。ここに来てなお、私のことを暴露しないし、素振りさえ見せまいとしてくれる。私は雅を裏切ったのに。


「さっき、一人が喚いたけどな」


 桐椰くんが忌々し気に、倒れている一人を示して顎を(しゃく)った。


「お前が幕張匠の相棒だって?」


 ストン――、と、胸の中に冷たい氷が落ちたような気がした。桐椰くんと松隆くんに、また一つバレた。あぁ、もう、終わりじゃないか。何もかもバレて仕方がない頃合いのようだ。だって、今ここで黙り込んで、雅に全部言わせるなんてできない。


「それが関係してんじゃねーのかよ」


 もう終わりにしよう。二年間も隠し通した、そのことで誰かに責められることもなかった、それで十分だ。いい加減に断罪のときが来たんだと、そう思えばいい。それなのに……、どうしてか、脳裏に過るのはついさっきのことだ。無事で安心したと、私の名前を呼んでくれたこと。幕張匠だと告白すれば、もう呼んでくれない。

 呼んでほしいと、思うのは何でだろう。私達を捕まえたこの人達の前で告白すべきか惑った時とは別の感情に襲われている。別なのはどうしてだろう。私は雅が大事なのに、ずっと一緒にいてくれた雅が大事なはずなのに、たった三ヶ月しか一緒にいない御三家の前で、雅を守るための告白ができないのはどうしてだろう。

 言え、言うんだ。一生懸命自分を叱咤する。口さえ開けば決心がつく、そう信じて口を開く。そのリップ音がいやに大きく響いた。


「人質に取られたんだろう、友人を」


 ――そして、この中で誰よりもこの界隈に縁のなさそうな人が、声を発した。弾かれたように振り返ったお陰で、桐椰くん達からは私の表情は見えなかったと思う。月影くんはいつもの無表情で、億劫(おっくう)そうに眼鏡を押し上げた。


「どういうことだ?」

「調べている途中で分かった。菊池の友人が彼等のもとにいたようだ」


 どうして月影くんが、そんなことを知っているのだろう。