「別に暗くてもいーじゃん」

「見えないと意味ねーじゃん」

「知らねーよ、お前の趣味とか」


 頬が掴まれる。ぎゅっと唇を引き結んでいると唇に親指が触れた。


「あー、でも顔見えないほうがいいか」

「ひっでぇヤツ」


 暗がりから聞こえる笑い声は不気味だった。その手から逃れるように顔を背ければ、思いの外あっさりと解放されて、代わりに首から肩へと手が下りる。虫が這うほうがまだマシだと思うほどの寒気が走る。そのまま肩が掴まれて引き寄せられた。知らない男の唇が鎖骨の上に触れた。


「っ――!」


 痛みが走り、はっ、と涙のような息を吐き出す。ここでやんなよー、と冗談交じりの嘲笑が向けられる。ぼろぼろと零れる涙を通して、殴られ過ぎて気絶した雅のいる辺りに視線だけを向ける。私達を助けてくれるものは何もない。これが、私の我儘に対する罰だというのなら、せめて。


「……お願い」

「あ?」


 胸に触れていた手が止まった。無粋な真似をしてくれるなと言わんばかりのその顔は構わずそこを撫でる。身体は怯えている。それでもなんとか口を開いた。


「雅を、解放して」

「はぁ?」

「ははっ、面白ぇ。自分の立場分かってんのか?」


 リーダーの男が、雅の頭を軽く踏みながら私を見た。


「……分かってる」

「じゃあンなこと言えねぇよな?」

「……私は、御三家の餌でしょ……?」


 せめて、自分で自分を抱きしめたかった。怖くて震えているのか、その震えのせいで一層怖く感じているのか、分からなくなっていた。


「私がいれば、もう、御三家を呼ぶのに十分だから……雅のことは、もう……」

「分かった分かった。んじゃこうしよ」


 はいはい降参です、根負けしました、なんて様子でリーダーの男がわざとらしく両手を挙げる。


「残りも全部脱いだら、菊池は外に出してやるよ」

「え……?」


 ひゅう、とまた誰かが上手な口笛を吹いた。愕然として言葉を失った私とは裏腹に、その場にいる男子達は囃し立てる。「そしたら菊池はもういーや」「だったら明かりついてからのほうがよくね」「だから顔が分かんないほうがさー、」と思い思いに好き勝手に笑っている。リーダーの男は雅のもとを離れる気配がない。


「ほらぁ、早くしないと、大事な雅が死んじゃうよ?」

「待って、話が違う、」