自分の名前が苦々し気に呟かれるその光景を、ずっとずっと消したかった。ただそれだけのために幕張匠になることだけを考えて、雅を巻き込んだ。何も悪くないと自分に言い聞かせてた。みんなにあるものが私にはないんだから、それを貰おうとして何が悪いんだと自分を正当化しようとしていた。そして、今になって、また無関係の御三家を巻き込もうとしている。
「いーね、白。清楚なの好きよ俺」
「菊池の元カノで桐椰の今カノで御三家の姫だぞ? 清楚なのは下着だけだろ」
笑い声を聞きながら、キャミソールの中に腰の辺りから手が突っ込まれるのを見ていた。びくりと身を引けば「怪我すんぞー」と笑いを含んだ声に止められた。肌に傷をつけないためか、ご丁寧にキャミソールを肌から離してぶちぶちと切ってくれている。もう時間を稼ぐために喋る気力もない。この中の誰かが桐椰くんを恨んでて、私が彼女だという流言を信じて、それなら私を犯してしまえばいいなんて思考は誤算だった。……そうじゃない、私が浅はかだった。
ブチンと、最後の繊維が切れた。カチャン、とナイフが床に置かれる音が死刑執行の合図のように響いた。
ふっ――、と。
「あ? なんだ?」
不意に工場内が闇に呑まれた。ぱちぱちと瞬きしたけれど明かりがつく気配はない。予想外の事態らしく、彼等も「あれ?」なんて頓狂な声を発していた。
「ブレーカー?」
「マジかよ。おい見て来いよ」
「えー、俺? ……あー、はいはい。どこにあんだっけ? 外?」
誰かがパッとスマホの明かりをつけた。その人の顔が照らされる。
「出て裏な」
「うぃっす」
一番下っ端だったのだろうか、その人はスマホの明かりを頼りに入口へ向かい、ガラガラガラとシャッターを開けた。北向きに建っているせいでそれほど明かりは差し込んでこなかった。
「このまま開けときます?」
「馬鹿、これ見られたらどーすんだよ。閉めとけ」
無能が、とでも罵りそうな声音でリーダー格が私と雅を煙草で示した。下っ端っぽい人は大人しくシャッターを閉め直して出ていく。再び真っ暗闇に呑まれ、私の前に屈みこんでいた人もスマホを取り出して懐中電灯機能を起動したまま床に置き、その場に胡坐をかいて「マジ萎えるわー」と頬杖をついた。
「折角いいとこだったのにさぁ」
「いーね、白。清楚なの好きよ俺」
「菊池の元カノで桐椰の今カノで御三家の姫だぞ? 清楚なのは下着だけだろ」
笑い声を聞きながら、キャミソールの中に腰の辺りから手が突っ込まれるのを見ていた。びくりと身を引けば「怪我すんぞー」と笑いを含んだ声に止められた。肌に傷をつけないためか、ご丁寧にキャミソールを肌から離してぶちぶちと切ってくれている。もう時間を稼ぐために喋る気力もない。この中の誰かが桐椰くんを恨んでて、私が彼女だという流言を信じて、それなら私を犯してしまえばいいなんて思考は誤算だった。……そうじゃない、私が浅はかだった。
ブチンと、最後の繊維が切れた。カチャン、とナイフが床に置かれる音が死刑執行の合図のように響いた。
ふっ――、と。
「あ? なんだ?」
不意に工場内が闇に呑まれた。ぱちぱちと瞬きしたけれど明かりがつく気配はない。予想外の事態らしく、彼等も「あれ?」なんて頓狂な声を発していた。
「ブレーカー?」
「マジかよ。おい見て来いよ」
「えー、俺? ……あー、はいはい。どこにあんだっけ? 外?」
誰かがパッとスマホの明かりをつけた。その人の顔が照らされる。
「出て裏な」
「うぃっす」
一番下っ端だったのだろうか、その人はスマホの明かりを頼りに入口へ向かい、ガラガラガラとシャッターを開けた。北向きに建っているせいでそれほど明かりは差し込んでこなかった。
「このまま開けときます?」
「馬鹿、これ見られたらどーすんだよ。閉めとけ」
無能が、とでも罵りそうな声音でリーダー格が私と雅を煙草で示した。下っ端っぽい人は大人しくシャッターを閉め直して出ていく。再び真っ暗闇に呑まれ、私の前に屈みこんでいた人もスマホを取り出して懐中電灯機能を起動したまま床に置き、その場に胡坐をかいて「マジ萎えるわー」と頬杖をついた。
「折角いいとこだったのにさぁ」