どうして、なんて訊くまでもない。どう答えるのが正解だろう。ぎゅ、と雅の指先を握りしめた。


「……呼ばなかったらどうなりますか」

「亜季、頼むから、」

「いや、別に、俺はアンタに何もしないよ。ブサイク興味ないし」


 物分かりがいいのか寛容なのか、その人は心底興味なさそうに煙草を咥えて火を点ける。煙の臭いにむっと顔をしかめたのが気に食わなかったのか、ふーっと煙を吹きかけられた。


「けほっ、」

「アンタさー、結構アタマいーんだって?」


 思わず咳き込んだとき、ガンッ、と鈍い音が真横から響いた。私の手から雅の指が離れたのが先か、「っ、」と呻き声を堪えるような息遣いが聞こえたのが先か、少なくとも「頑丈だなー」と複数の笑い声も聞こえたせいで、煙のせいで瞑ってしまった目をこじ開けた。その時にはもう雅は平然な顔で「なにもないよ、」なんて嘘を吐いて私の手を握り返す。


「みや――」

「幕張匠って、知ってる?」


 私の話なんて聞いていないかのように太い声が遮られた。どく、と心臓がまた別の意味で大きく鼓動した。ここでその名前を聞くということは……。リーダー格の男よりも雅の横顔を見つめるけれど、口を開く気配はない。


「コイツさぁ、幕張の元相棒なんだよね」


 コン、とライターを床に置く音がした。立ち上がったその人が雅を下から覗き込む。


「幕張にやられたことあるからさぁ、呼べって言ってんのに、居場所知らねーとか言ってんの。マジふざけんなって話でさぁ、でもしゃーねぇから、御三家で勘弁してやるかって」

「勘弁って……御三家とは話が違う……」

「松隆にもやられたことあんだよねー。コイツが御三家の姫とナカヨシって言うから、そいつ使って御三家連れてくりゃ幕張は勘弁してやらって」


 ぐ、と雅の前髪をその人が掴む。無理矢理上向かされた雅は呻いたけれど何も言わなかった。


強情(ゴージョー)、っての? コイツ、幕張のことなーんにも喋んなくってさぁ。幕張の相棒だぜ、知らねーわけないよなぁ? なのになーんにも言わねぇとか、ゲイかよっての」


 ドッ、とその人の膝が雅の鳩尾(みぞおち)に突っ込まれた。う、と喉に何かを詰まらせたような吃音と共に雅が膝をつく。顔から血の気が引くのが自分で分かる、どく、とまた心臓が別の意味で鼓動する。


「雅!」