馬鹿が露呈してるよ――。思わず次々と吐き出しそうになった罵詈雑言を、最後の理性で抑えた。私だって馬鹿なのに、蝶乃さんを馬鹿と罵倒するなんて、傲慢もいいとこだ。


「蝶乃さん、教えてあげるよ。人は誰だって仮面(ペルソナ)を被ってるものだよ」


 でも、だって、蝶乃さんだってタイミングが悪い。月影くんが桐椰くんと蝶乃さんの喧嘩の話をしたばかりなんだ。あんな話を聞かされて、蝶乃さんを攻撃したくならないはずがない。


「蝶乃さんは、私をなんだと思ってたのかな。御三家に軽くあしらわれてる能天気な一般生徒かな? それも正解だけど、仮面(ペルソナ)が一枚だなんて、だーれも言ってないよ」


 お年寄りに席を譲る桐椰くんを馬鹿だと嗤った蝶乃さん。自分に理解できない価値観を低劣だとでも思ってるのかな。自分の理解が及ばないのは相手が低劣過ぎるからだとでも思ってるのかな。自分の理解できる相手以外はみんな低劣だと思ってるのかな。


「……あぁ、そうだ、ごめん。桐椰くんに聞いたけど、蝶乃さんは世界史が苦手なんだってね。ペルソナなんて言われても分からないよね」


 蝶乃さんの表情が変わっていくのを見ていた。今まで自分が馬鹿にしていた相手が、自分に理解できないことを話すことに耐えられないのだろうか。ふぅ、と小さな溜息を吐いた。


「ところで、蝶乃さん。何か用事?」


 蝶乃さんだって、思ってもみなかっただろう。私がこんなにも性格が悪いなんて。でも残念ながら、私の性格は決して良くはない。私を攻撃したがる人に防御しないでへらへら笑うどころか、ここぞとばかりに反撃してしまうくらいには、性格が良くはない。


「……そうやって、言い負かしたつもりにでもなってるの?」


 鼻で笑う蝶乃さんを、強がりなのかなぁと思ってしまうくらいには、性格が悪い。私はもう一度溜息を吐いた。


「……別に」

「桐椰くんを見てたの?」

「そうだね。蝶乃さんの元カレ、かーっこいいね」


 私の隣に並んだ蝶乃さんを煽ってやれば、その横顔は無表情になった。酷く冷めた目で、桐椰くんを蔑むように見つめる。


「桐椰くんと別れた理由、言ったことあったかしら?」

「聞いたことないよ」

「理解ができないから」