どこかを走っていた。真っ暗な道。下はコンクリートみたいに固いのに、音がしない。


 いつもならもっと早く走れるはずだったのに。

 どこか足がもつれて、重くて動かせない。


 「ひぅっ」


 一瞬お腹が潰されたのかと思った。

 突然の圧迫感。

 投げ出された手足がぷらぷらとする。

 お腹に回った見慣れた腕。私より太くて筋肉があって、私をぎゅっと後ろから抱きしめるように受け止めていた。

 ひゅっと喉がなった。


 こんな真っ暗な中、まさか窓から落ちる私を受け止められる人なんていない。

 ーー私を探す彼、柊以外は。




 「つむぎ」



 夜の闇を溶かすように甘くて低い声が囁かれたことにより確信付けられた。

 ああ、結局捕まってしまった。


 彼は私の反応がないのをそのままに、私が転げ落ちるはずだった地に静かに下ろした。

 震える脚で彼の方を振り返りながらも、身長の高い彼の顔なんて見ないようにして一歩、一歩、後ずさる。

 でもついにトンなんて音がして。
 私を嘲笑うようにして私の背が壁についた。

 彼が今どんな顔をしているのか見たくない。

 怖い。
 じわりと自然に涙が浮かんで、目に水の膜が張る。


 目の前の彼がため息を吐くのが聞こえた時、既に私が必死に逃げた距離を一歩で縮めていた。






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