そんなある日。
わたしは仕事で大きなミスをしてしまった。
ソファーを購入していただいたお客様がいたのだが、型落ちで割引になっているにも関わらず、通常価格で売ってしまったのだ。
あとからお客様から連絡があり、わたしは上司と共にお客様のご自宅へ出向き、謝罪をした。
幸いなことに優しいお客様だった為、大きな騒ぎにはならなかったが、上司にはガッツリ絞られた。
その仕事帰り、わたしはいつものように凌さんのお店に立ち寄った。
今日は瀬戸くんも居る日だった。
「あ、天音ちゃん。お疲れ!」
瀬戸くんが箒を片手に言う。
「お疲れ様〜。」
わたしは力無くそう言うと、レジ前に丸椅子を持ってきて座り、カウンターに顔を伏せた。
「あれ?いつもの天音ちゃんじゃない。」
わたしの様子を見て瀬戸くんが言った。
わたしは顔を伏せたまま「そりゃあ、わたしだって、元気ない日もあるよ。」と言う。
「珍しいこともあるもんだな。」
そう言う凌さんの声でわたしは顔を上げる。
凌さんはわたしの元気のない顔を見ると、ギターを手に持ち「天音ちゃん、歌える?」と言った。
「えっ?」
「歌、何か歌えるのない?」
凌さんはそう言うと、ギターのチューニングを始めた。