凌さんと再会出来たあの日から、わたしは毎週土曜日と平日で仕事が早番だったときの仕事帰りに、凌さんが営む古本屋に立ち寄るようになった。
凌さんのお店に通うようになって気付いたのだが、お店には週2で出勤してくるバイトくんが居た。
バイトくんの名前は、瀬戸勇太といった。
瀬戸くんは丸いメガネをかけたわたしと同じ年で、他のバイトと掛け持ちして働いてるようだ。
そしてわたしは、今日もレジ台の向こう側でギターを弾き語りする凌さんの歌声に聴き惚れる。
「会いたくて 会いたくて この胸の囁きが♪
あなたを探している あなたを呼んでいる♪」
凌さんはいつも悲しい歌ばかり歌う。
それがわたしは気になっていた。
「凌さんって、いつもその唄歌いますよね。カバーですか?」
わたしがそう訊くと、凌さんはギターを下ろし「古い歌だ。」と言った。
「自分では曲作ったりしないんですか?」
「俺は、自分では作れない。」
「そうかなぁ?凌さんなら、良い曲作れそうですけどね!」
凌さんはわたしの言葉に作った微笑みを見せると、暖簾を潜り奥の部屋へと消えて行った。
「ねぇねぇ、瀬戸くん。」
わたしは床をモップで掃く瀬戸くんを呼んだ。
瀬戸くんはモップを掃く手を止めると、キョトンとした顔でこっちを見て、「はい?何ですか?」と言った。