冬の訪れが近いことを知らせる雪虫が飛び始める11月。
夜は秋風が冷たく、わたしはバイト帰り、小走りで家路につこうとしていた。

「さっむー。」
そう独り言を言っていると、どこからかギターの音色と歌声が聞こえてきた。

どこか切ない歌声に、失恋ソング。

その声に足を止め、歌声を探すわたし。

すると、シャッターが閉まった店の前に座り、弾き語りをしている男性を見つけた。
黒髪は癖毛なのかパーマなのか無造作で、哀愁漂う雰囲気の男性だった。

わたしはゆっくりとその男性に近付くと、目の前にしゃがみ込み、その歌声に聴き惚れていた。

歌が終わると、わたしは一人で拍手をした。

男性はわたしの拍手にゆっくりと顔を上げた。

「歌上手いですね!いつもここで歌ってるんですか?」

わたしがそう訊くと、「いつもはやってない。」とだけ言い、その男性はアコースティックギターをギターケースにしまい、帰る準備を始めた。

「明日もここで歌ってますか?」

わたしの言葉に目を合わせることなく、「さぁな。」と言うと、その男性はギターを担ぎ去って行った。

明日はバイト休みだけど、また来てみよう。

わたしは、完全に彼の切ない歌声と雰囲気に一目惚れしてしまっていた。