隠れるだけなら、わざわざ人の家の屋根裏でなくても良いじゃないか、と思われるかもしれない。

林の中でも、マンホールの中でも良い。

空き家に身を隠してもいいじゃないか、と。

確かにそういう手もあるし、昔はそうやって隠れていたこともある。

でも、そういう方法で隠れると…見つかる可能性が格段に上がる。

警察だって、何処を探せば良いかは分かっている。

真夜中に林の中をうろうろしている人間を見つければ、誰だって怪しむだろう。

空き家もそう。真っ先に捜索される。

外にいれば夏は暑く、冬は寒い。雨が降ると困るというデメリットもある。

だが、人が住んでいる家の中なら。

家の中の人間にさえ気づかれなければ、他に気を付けることは何もない。

冬はかなり寒いけど、屋根裏だと雨風も凌げるし。

家の中に誰もいないときは、屋根裏から降りて、家の中を好きに使うことも出来る。

長年の経験で、ここが最適の隠れ場所だと知った。

家族が家にいる夜の間だけ、動くのを我慢していれば良い。

それに。

俺がいるのは、リビングの真上。

そして真夜中になれば、家族は皆自分の寝室に戻ってしまい、リビングは無人になる。

多少俺がリビングの天井を軋ませても、誰にも気づかれることはない。

従って、夜の間は屋根裏から降りて、リビングとキッチンを好きに使うことも、出来なくはないが…。

さすがにそれは危ないので、やめておく。

必要もないのに、危険を冒すのは馬鹿らしい。

ただ、テレビをつけてニュースを確認し、事件の捜索がどれだけ進んだかはチェックしたかった。

でも、まぁ…明日の昼間、また家族が全員出掛けたら…自由にテレビを観ることは出来る。

だから、それまでは我慢しよう。

もし俺が夜中にテレビをつけて、家族の誰かが目を覚ましたら大変だ。

俺は持ち込んだペットボトルの水を飲み、そして高校生の部屋から借りてきたコートを着込んだ。

この屋根裏の隠れ場所に問題があるとしたら、それは寒さと暑さだな。

外にいるよりは遥かにマシなのだけど、家によっては隙間風がかなり入ってくる場合もある。

それを見込んで、こうしてコートを借りてきた次第である。

伊達に隠れ慣れてはいない。

…堂々と、街を歩けたら良いんだけどな。

さすがに、今は無理そうだ。

「…」

俺は低い天井を見上げながら、AちゃんとBちゃんの両親が今頃どうしているかを考えた。