…あっという間に。

少女の身体は、干からびたミイラのようになった。

「…」

でも、儀式はまだ終わらない。

俺は女の子の身体を、地面に横たえた。

血はほとんど俺が飲んでしまったから、地面が血で汚れているようなことはなかった。

精々、僅かに飛び散っている程度。

俺はカッターナイフを再び手に取り、少女の上に跨がった。

青いスモックを切り裂き、左胸の皮膚にナイフを突き立てる。

これも、もう慣れたもの。

思いっきり突き立てて、思いっきり引き裂かないと、取り出せない。

ぐちゃぐちゃと肉を切り裂くと、「中身」が見えてきた。

あんまり力を入れてナイフを動かしたものだから、途中でナイフの方が負けて、ポキッと刃が折れてしまった。

でも、構わない。

ナイフの代わりに手を突っ込んで、「それ」を探り当てる。

…あぁ、これだ。

しっかりと手に掴み、血管をぶちぶちを引きちぎりながら、無理矢理外の世界に引っ張り出す。

肉や骨に邪魔されて、なかなか取り出せない。

しばらく悪戦苦闘して、俺はようやく、心臓を取り出すことに成功した。

永久に動くことをやめてしまったそれを、しばしぼんやりと見つめ。

「…あむ」

赤いリンゴでも齧るかのように。

赤黒い心臓に、かぷり、と齧りついた。

リンゴよりもずっと小さくて、子供の握りこぶしほどの心臓なんて、あっという間だ。

ほんの五分もしないうちに、俺の手には、何もなくなっていた。

「…はぁ…」

…少し、楽になった。

沸き立つような衝動が、マシになっている。

…でも。

「…まだ足りない」

世界を移動したときは、いつもこうだ。

一人だけじゃ足りない。

もう一人…欲しい。

「…」

俺は、無惨に心臓を抜き取られた少女の遺骸を見下ろした。

…もう、これに価値はない。

いつもならちゃんと死体を処理するのだが、今はそんなことをしている時間が惜しい。

視線を上げると、そこに、ヒビ割れて埃を被ったポリバケツが置いてあるのが見えた。

…あぁ、あれで良いじゃん。

「ゴミ」なんだから…ゴミ箱に捨てないと。

俺は少女の遺骸を掴み、ポリバケツの中に投げ入れた。

蓋をして、その上から、路地裏に放置されていた朽ちた段ボールやガラクタを置いて、カモフラージュする。

これで良いだろう。

俺は、急いでその場を離れた。

そのときにはもう、先程俺が殺した女の子のことなんて、頭にはなかった。

俺の頭にあるのは、これから殺す女の子のことだけだった。