「…」

一瞬にして頭が冷えた俺は、周囲をぐるりと見渡した。

…ここなら大丈夫そうだ。

俺は、空き家になっていた家と家の間の、細い路地に身を滑り込ませ。

袖の内側に忍ばせているカッターナイフを、しっかりと左手に握り締めた。

…さぁ、準備が出来た。

あと少し。あと少しだけ我慢して。

もうすぐ…。

「…来た」

俺がそこに潜んでいるなど、露ほども考えず。

女の子が、無邪気に俺の目の前を通り過ぎようとした、そのとき。

右手で女の子の黄色い鞄を掴み、思いっきり路地に引き寄せた。

「!?」

女の子が悲鳴をあげる前に、右手で口を塞ぎ。

顎を持ち上げて、左手のナイフで、躊躇いなく喉を突き刺した。

肉を裂く確かな手応えを感じた。

つい先程まで、この女の子には未来があった。

明日があって明後日があって、10年後も50年後もあっただろう。

女の子の方が寿命が長いと言うし、もしかしたら、この子の人生はこれから先、100年も続いたかもしれない。

でも、この瞬間に途絶えた。

この子にもう、未来はない。

この、たった十秒にも満たない短い時間の間に。

この子が歩むはずだった何十年もの未来が、一瞬で潰えた。

あとに残るのは、憐れな骸だけ。

女の子の目から生気が消えたのを確認する前に、俺はナイフを引き抜いた。

そして、情熱的な口づけでも交わすかのように、噴水のように噴き出す傷口に口をつけた。

溢れ出す血潮を、一心不乱に飲み続けた。

生臭く濃い鉄の味が、口の中一杯に広がった。

最初は、吐き気がするほどおぞましかった。

でも今では、慣れた。

もうすっかり慣れてしまった。

何もかも。