「これ以上の犠牲者は出ていませんが、だからと言って犯人を野放しには出来ません」

「…当然だね」

四人目の犠牲者は出なかったが、しかし三人の女の子が殺されたことに変わりはない。

「だから、あれからも捜査は続けられていたんですが…。そこで、色々と興味深いことが分かってきたそうです」

「興味深いこと?」

「はい。調べてみたところ…他の時空…他の世界でも、同じ手口で女の子が何人も殺されているようです」

…何だって?

ルーデュニア聖王国がある、私達が住んでいるこの時空。即ち他の世界でも、同じ事件が?

「…同じ犯人が、犯行を繰り返してる…ってことかな」

「…恐らくは」

普通の人間に、時空間の移動は出来ない。

自分の生まれた世界から、移動することは出来ない。

私やシュニィちゃんや、羽久のような…時空間を移動する、一定水準以上の時魔法の使い手でもなければ。

時空間の移動が出来るのは、聖魔騎士団魔導部隊でも、選ばれた魔導師だけだ。

そしてその犯人は…それが出来る魔導師ってことだ。

様々な時空を移動しては、あのおぞましい手口で女の子を殺している…。

わざわざ時空を移動するのは、捕まえられるのを避ける為だろう。恐らくは。

「…実に卑劣な犯行だね」

「…はい」

シュニィちゃんは、珍しく険しい顔をしていた。

自身も、同じくらいの年頃の女の子を持つ親として、思うところがあるのだろう。

「ねぇ、羽久…。卑劣な犯行だと思うよね」

「ん?あぁ…」

「…何でボーッとしてるの?」

「いや…。正直去年のあの事件、犯人シルナだと思ってたから…。違うんだなーって…」

「違うよ失礼な!君そんなこと思ってたの!?」

私はロリコンじゃないって、何回言ったら分かるのこの子は。

大体、私がそんな事件起こす訳ないでしょ。

「とにかく!他の時空に移ってまでそんなことしてるなんて、これは見過ごせないね」

「はい…。それで、聖魔騎士団に依頼が来たんです。犯人が複数の時空を股にかける魔導師なら、私達魔導部隊が動かなければ」

他の誰かには任せられないね。当然。

それに…。

「…犯人の実力が分からない以上、生半可な魔導師には任せられません。出来れば…時魔法のプロである羽久さんと、学院長が動いてくださると…とても有り難いんですが…」

「成程…」

それで、私と羽久のところに来たのか。

「…頼まれてくれませんか?お二人共忙しいのは分かってるんですが…。他の魔導師には任せられなくて…」

申し訳なさそうに頭を下げるシュニィちゃん。

全くもう…水臭いんだから。

そのくらい、一言、お願いしますで頼んでくれて良いのに。

「俺は別に良いよ。そもそも俺は聖魔騎士団魔導部隊の人間なんだから、シュニィは上司だ。任務の命令なら、そもそもお伺い立てる必要ないよ」

そうそう。律儀だよねぇシュニィちゃん。

「ありがとうございます、羽久さん…」

「シュニィちゃん。私も構わないよ」

「本当ですか?」

「勿論。可愛い教え子の頼みだからね」

「そうそう。告白シーン盗み見た引け目もあるし…」

ちょっ、羽久また余計なことを。

「え?告白…?」

きょとん、と首を傾げるシュニィちゃん。

「あぁぁぁ何も言ってない!何も言ってないよ羽久は!とにかく、とにかく私達行ってくるから!あの!私がいない間!出来たら学院の授業、手伝いを寄越してくれると嬉しいな!」

「…?はい、分かりました」

…ホッ。

もう…羽久がすぐ余計なこと言うから…。