──────…イーニシュフェルト魔導学院、学院長シルナ・エインリーは。

学院長の椅子に座って、情けない声で呟いた。

「あー…。お金がなーい…」

「…開幕第一声で何だよ、その間抜けな台詞は」

まさか世間の皆様も、イーニシュフェルトの学院長が、こんな情けない顔して、こんな情けないこと言ってるとは思うまいな。

「イーニシュフェルト魔導学院の学院長ともあろう者が、金に困るなよ。王室からも聖魔騎士団からも、助成金しこたまもらってるだろうが」

何なら、その助成金を着服して私腹を肥やしていたとしてもバレないだろうに。

それなのにこのおっさん。

そんな悪どいことをする勇気がないどころか。

「それはもらってるけど…でも…全部消えちゃうんだもん」

「…」

多額の助成金が、あっという間に溶けてしまう理由。

それは、このシルナが私腹を肥やしているからでも、学校の設備費に莫大な投資をしているからでもない。

「見境なく学費免除とか、奨学金貸与とかやってるから、すぐに金がなくなるんだよ。自腹で学費が払えない者は入学拒否、これで良いじゃん」

この男、学院長権限で、家が貧しくて学費が払えない生徒の入学金を免除したり、奨学金を貸したり。

優秀な生徒には、学費免除で入学させたりしているのである。

奨学金貸すのはまぁ分かるけど、それなら利子を高くつけたり、返済期限を短めに設定したりすれば良いものを、シルナと来たら、

「利子?つけないつけない」

「返済期限?余裕が出来たときで良いよ~」

「え?奨学金…?君に貸してたっけ?良いよ良いよ返さなくて。忘れたから」

とか言って、ろくに取り立てもしない。

前の二つはまだ良い。

最後のは何だ。

まぁシルナも老人だから?物忘れが酷くなってるのかもしれないけど。

奨学金貸したこと忘れてたから、返さなくて良いよ、なんて。

一部の優秀な生徒にしかそういうことはしないが、だからと言ってそれはそれ、これはこれだよなぁ?

こんなことばっかやってるから、お金に困る羽目になるんだ。

しかし。