「あ~。やっぱりここが一番落ち着くな~」

…イーニシュフェルト魔導学院、学院長室の、自分のデスクに腰を下ろし。

シルナは、こたつに入ったおじいさんのようなことを言った。

まぁ、年齢的にはもうおっさん通り越して、おじいさんなんだから仕方ない。

「羽久?今私に失礼なこと考えてない?」

「さぁ?被害妄想じゃない?」

もしくは事実じゃない?

それより。

「落ち着いてる暇はないだろ。授業も再開しなきゃいけないし、その他雑用が山ほど溜まって…」

「いやぁ、今はそういうの良いじゃない、とにかく日常に帰った来た喜びを噛み締め、」

なんて言いながら、でろーん、と机に突っ伏そうとした、そのとき。

「学院長!」

「ひぇっ」

ノックも何もなく、つかつかと学院長室に入ってきたのは、我らの頼れる教師仲間、イレースであった。

おいでなすった。

「何処で油を売ってるのかと思ったら、案の定でしたね。遊んでる暇はありませんよ!」

「あ、遊んでなんかないよ。今、帰ってきた喜びを噛み締めたところで」

「そんなものは後にしてください。やることが山積みなんですから。さぁ、早く分身を出して。遅れた授業の補習時間の確保、入院中に会うはずだった来客との日程調整、その他書類整理事務仕事及び雑務、やることはいくらでもありますからね!」

そう言って、イレースは正に山積みの書類の束を、デスクにドサッ、と置いた。

うわぁ…。あれ、全部目を通すのかよ。

イーニシュフェルトには教師が三人しかいないので、そりゃあこういうことになる。

「ふぇっ」

「喜びを噛み締めるのは、これらが全て終わってからにしてください。それでは、私もやることがたくさんあるので」

イレース自身も、多分同じくらい仕事を抱え込んでるのだろう。

彼女もいくつも授業持ってるし…。

聖魔騎士団が送ってくれた臨時教師との引き継ぎもあるし…。

確かに、喜びを噛み締めている時間はない。

まずは、学院の方を何とかしなければ。

「…羽久…」

「…何だよ」

シルナは、半泣きだった。

「…手伝ってくれる?」

「さて、じゃあ俺は聖魔騎士団にでも顔出してくるかな」

「羽久ぇぇぇぇ!私を見捨てないでぇぇぇ!」

がっちりと足にしがみついてくるシルナ。必死。

…仕方がない。病み上がりだしな。

「…分かったよ。手伝うよ」

「本当!?ありがとう、羽久。大好き」

はいはい。お疲れ様。