ベリクリーデの病室からの帰り道。

廊下でゆっくりと歩きながら、シルナはこう呟いた。

「…本当はね、羽久」

「うん?」

「ベリクリーデちゃんを殺してしまおうかと、思わなくもないんだよ」

「…」

…そうか。

軽蔑はしない。シルナはきっと、そう思ってるだろうと予測していたから。

シルナが私情を優先するのなら、むしろそうするべきなのだ。

「ベリクリーデちゃんが死んで、聖なる神が死んでしまえば…。二十音の敵はいなくなる。私は、永遠に二十音を守れる…」

「…」

「考えなかった訳じゃない。ベリクリーデちゃんと二十音の命を天秤にかけられたら、私は間違いなく二十音の命を選ぶ。私の中で、二十音より重い命なんて、何処にもないんだ」

…だろうね。

「ベリクリーデちゃんの中の神は、死んではいない。きっと私を憎んでいるだろう。今度会ったときは、迷わず私と二十音を殺しにかかってくるだろう。だから、その『時』が来たら、私は…」

…今度こそ。

全てを犠牲にしてでも、二十音を守ることを選ぶ…か。

シルナなら、きっとそうするだろう。

誰に恨まれ、誰に憎まれても、そうするだろう。

それが今や、シルナの生きる意味だから。

「…『羽久』である俺は、月並みな言葉しか言えないけどさ」

シルナと二十音の絆を、羽久である俺は、全て知っている訳ではない。

それはきっと、俺と羽久の中にある絆とは、全く別物なのだろう。

俺と二十音は同じ人物であり、同時に全くの別人なのだから。

でも、これだけは言える。

「世界中の誰も、シルナを許さなくても」

きっと、二十音も同じことを言うだろう。

「俺は、俺達は…シルナの味方だよ」

例え、それで聖戦がまた引き起こされようとも。

その結果、多くの人が命を落とすことになろうとも。

俺は、シルナの味方でいる。

もう絶対に、シルナを一人で戦わせたりはしない。

何があっても、だ。

「…そっか」

シルナは、ふっと笑った。

心からの笑みだった。

「ありがとう」