見舞いに来てくれたのは、アイナだけではない。

「失礼します」

俺達が入院して三日目に、驚くべき人物が見舞いにやって来た。

「…フユリ様!?」

これには、シルナも俺達も、驚きのあまり一瞬言葉を失った。

フユリ・スイレン女王。

ここルーデュニア聖王国の頂点に立つ統率者である。

「お加減は如何ですか、シルナ学院長」

「まさか、フユリ様がいらしてくださるなんて…」

いくらイーニシュフェルトの学院長と言えども、女王陛下と寝そべって話す訳にはいかない。

シルナはよろよろと起き上がろうとしたが、フユリ様はそれを制した。

「そのままで結構です。いけませんよ、無理をしては」

「ですが…」

「あなたに何かあったら、誰がイーニシュフェルトを率いるのです。今はご自愛ください」

「…申し訳ありません」

この中で、一番魔力の消耗が激しいのは、間違いなくシルナだ。

三日たった今でも、起き上がるのも辛いようだ。

フユリ様の気遣いが有り難かった。

「聞きましたよ。よもや聖戦が再び引き起こされようとしていたところを、あなた方が止めてくださったそうですね」

「そんな…大層なことでは」

シルナは謙遜して言うが、そんな大層なことだったのだ。

あのままシルナが覚醒したベリクリーデを放置していれば、どうなっていたことか。

ベリクリーデと、前の俺…二十音との、血で血を洗う戦いが引き起こされていただろう。

それに巻き込まれて、どれだけの人々が命を落としたことだろう。

シルナが神殺しの魔法を使ったからこそ、一人の犠牲者も出さずに聖戦を阻止出来たのだ。

「あなたには、感謝しかありません。シルナ・エインリー学院長。よくぞ、このルーデュニア聖王国を守ってくださいました」

「…フユリ様。私は、あなたの思うような人間ではありませんよ」

「…」

…シルナによれば、ルーデュニア聖王国を建国したのも、イーニシュフェルト魔導学院を作ったのも。

そして、フユリ様の信用を得るのも、全て計算ずくで行ったこと。

決して、シルナが愛国心ある魔導師だからではない。

だが…。

「…あなたほど長く生きていれば、多くの罪を犯し、また、多くの人を欺いてもきたことでしょう」

フユリ様は、静かにそう言った。

その通りだ。

シルナは、そう思っていたに違いない。

「ですが、同時に多くの人を救いもしました。あなたが意識していようと、していなかろうと。あなたがいたからこそ生きる希望を得られた者も、大勢いるはずです」

この場にいる全員が、心の中で頷いた。

シルナは、皆を騙した、傷つけたって、そればかりを気にしているようだが。

同時に、俺達を救い、助け、守りもしてくれたのだ。

その事実は変わらない。

「そして、このルーデュニア聖王国の発展の為、惜しまぬ努力を捧げてくれました。ですから私は、あなたに心から感謝しています。心からあなたを信じています」

「…フユリ様…」

「どうかこれからも、ルーデュニア聖王国への貢献を望みます。早く元気になってくださいね」

「…ありがとうございます」

笑顔でそう言って、フユリ様は帰っていった。

なぁ、分かっただろ、シルナ。

お前、自分で思ってるよりずっと、皆に愛されて生きてんだよ。