シュニィとアトラスの愛娘、アイナは、教育係のエレンと共に、病院に見舞いにやって来た。

魔導師ではないものの、魔力だけはピカ一だった為、大量に魔力を吸われてぐったりしていたはずのアトラスが、一気に覚醒した。

おい、そんないきなり起き上がって大丈夫か。

ってかさっきまで寝てなかった?

「おとうしゃま、おかあしゃま~」

アイナは、ちょこちょこと両親のベッドに走ってきた。

成程、これは可愛い。

これには、横になったままとはいえ、シュニィも満面の笑顔だった。

しかし。

「おとうしゃま、だっこして~」

子供は、時として大人より残酷である。

疲労困憊して、起き上がるのもままならないアトラスに、アイナは悪魔のような要求をした。

勿論アイナには何の悪意もない。いつもしてもらってるように、父親に抱っこしてもらいたいだけだ。

無邪気に手を伸ばしてくる愛娘に、アトラスは父親としての根性を見せた。

「よし、おいでアイナ。父さんが抱っこしてあげよう」

そう言って、アイナをひょいっ、と膝の上に乗せてあげた。

おぉ、やるなアトラス。

見直したよ。顔真っ青だけど。

父親の腕に抱かれて、ご満悦の様子のアイナ。

それを見て俺達もほっこりしていたのだが。

アイナは、ここで更に残酷な要求を突きつける。

「おとうしゃま、アイナ、お外でボール遊びしたい」

「…!!」

病室にいる全員が戦慄した。

アイナ、お前…。邪神より残酷だぞ。

「あ、アイナお嬢様。お父様は今お疲れで…」

これには、さすがのエレンも止めようとしたが。

「…だめ?」

悲しそうな目で首を傾げられ、アトラスは死にそうになりながら、ベッドから起き上がろうとした。

「大丈夫だ、アイナ。今すぐ外に出て、父さんがボール遊びしてやるからな…!」

アトラスもアトラスで、お父さん今無理だからごめんね、と言えば良いものを。

愛娘に頼まれると断れないらしい。

おい、やめとけアトラス。死ぬぞ。

すると。

「アイナ、お父様は今ご病気で寝ていなくちゃいけないから、お外では遊べないんですよ」

さすが、母は強し。

シュニィが、夫と娘を止めた。

「…おとうしゃま、いたいいたいなの?」

「うっ…。いたいいたい…。まぁ、いたいいたいだな…」

正しくは痛い訳ではなく、単なる魔力消耗による疲労なのだが。

アイナには、そう言った方が分かりやすいだろう。

「おかあしゃまは?おかあしゃまも、いたいいたいなの?」

「えぇ、お母様もいたいいたいなんですよ。だからお外で遊ぶのは、元気になってからにしましょうね」

どうやら、両親共に体調が優れないことを察したらしいアイナ。

すると今度は、途端に不安になってきたようで。

「…おとうしゃま、しんじゃうの?」

泣きそうな顔になって、そう尋ねた。

いや、魔力消耗してるだけだから、別に死にはしないのだが。

そんな事情を説明する前に、アイナはぽろぽろと泣き出してしまった。

「おとうしゃま、おかあしゃま、しんじゃ嫌だ…」

…やべぇ。

俺関係ないのに、物凄い罪悪感。

俺でさえこの罪悪感なのだから、親二人、特にアトラスはいたたまれないだろうな…と思っていたら。

「大丈夫だ…!父さんは、アイナを残しては死なないぞ。殺されても死なない!何なら今からアイナを連れて、ルーデュニアを一周出来るぞ!俺はいつかアイナが彼氏を家に連れてきたとき、その男をぶっ飛ばすまでは、絶対に死なないからな!」

色々と落ち着け、アトラス。

これには、母親のシュニィも無言で天を仰いでいた。