「…愚か者共め」

私達のやり取りを黙って聞いていたベリクリーデちゃん…聖なる神は、杖を向ける私達を軽蔑の眼差しで見た。

「飼い犬は、所詮飼い犬という訳か。愚かにも私に牙を剥くとは…。最早、救いようがない」

正義の道を行くなら、この選択は間違っている。

でも私の教え子達は、その正義の道に背を向け、私を選んでくれた。

こんなに嬉しいことはない。

自分の積み上げてきたものが、無駄ではなかったのだと思った。

「…ならば、飼い主ごと葬るだけだ」

ベリクリーデちゃんは、私達をまとめて葬り去るつもりだ。

…だが。

「…そんなことはさせない」

私は二十音を守る為に生きてきた。

その為の魔法を、ずっと研究してきた。

神殺しの、魔法を。

「…皆、私に力を貸して欲しい」

私がそう言うと、私の教え子、仲間達は、迷うことなく頷いてくれた。

本当は、この魔法は邪神を討ち滅ぼす為に使うつもりだった。

それをまさか、聖なる神に対して使うことになるとは。

このことを知れば、イーニシュフェルトの里の皆は、私を許さないだろうな。

でも、今の私は。

「…愛する者を、守りたいんだ」

愛する者、たった一人の命。

それは、世界の全ての命よりも重い。

そして、今や私の守りたいものは、二十音だけではない。

イーニシュフェルト魔導学院の生徒達。

そこから巣立っていた卒業生達。

それだけじゃない、ルーデュニア聖王国の人々も。

私には背負うものがある。

守るべきものがある。

守りたいものがある。

そして、その中には当然。

「…君も含まれてるんだよ、ベリクリーデちゃん」

「…戯言を」

ベリクリーデちゃんの身体を乗っ取った聖なる神は、両手に魔力を溜めた。

あれが爆発すれば、この辺り一帯が消し飛ぶだろう。

「滅びよ、悪の手先共」

「…そうはさせない」

これをやってしまえば、私はもう二度と戻れない。

二度と、イーニシュフェルトの里の皆に顔向け出来ない。

でも。

それでも私は。

「…知ってしまったんだ。愛を…」

運命を変える感情を。

だから、ここで終わらせはしない。

「…゙悪魔は神を穿づ」

例え、この身が朽ち果てようとも。