──────…恨まれると思っていた。

裏切り者と罵られると思っていた。

そう言われる覚悟は出来ていた。

何せ私は、信用してくれていた彼らを裏切っていたのだから。

それなのに、どうして彼らは私を恨まない。

どうして憎まない。罵らない。

どうして…こんな私を、許そうとするんだ。

「どうして…」

「全く、そんなことも分からないとは…。どうしてか、教えてやろうか」

羽久は、呆れたように言った。

「困ったり、悲しんでる人が目の前にいたら、助けずにはいられない…お人好し学院長の、教え子だからだよ」

「…!」

それは…。

「冷徹で、残酷で、目的の為なら手段を選ばないシルナ・エインリー…。あんたはそれを演じたいんだろう。自分はそうでなきゃいけないと思ってる」

「…」

…その通りだ。

イーニシュフェルトの里、最後の生き残りの私に…。甘えは許されない。

「でも本当のシルナは違う。優しくて、馬鹿みたいにお人好しで、良い歳して寂しがり屋で、誰かを愛して、愛されずにはいられない…それが本当のシルナだ」

「…羽久…」

「だから二十音を殺せなかった。だから自分の学院に、イーニシュフェルトって名前をつけた。そうなんだろう?」

…そうだ。

深い意味はないつもりだった。

でも…私は無意識に、あの学院が…私の第二の故郷になってくれるのではないかと思って…。

「どんなに悪人面しようとしても、あんたのその優しさは、消せないんだよ。誰も、シルナを恨めない。憎めない。裏切ったと言いながら、心の中で泣いてるのも知ってるから」

「…」

「…そんな優しいシルナだから、何処までもついていこうって思えるんだよ」

…私は、とんでもない過ちを犯してしまった。

心を殺して、ただ邪神を殺す為だけの装置になれば良かったのに。

二十音に出会ってしまったから。

羽久に出会ってしまったから。

イーニシュフェルト魔導学院と、たくさんの教え子達に出会ってしまったから。

愛し、愛されることの喜びを知ってしまったから…。

…心をなくすことが、出来ない。

「…皆…」

裏切られていた知ってもなお、私を信頼の目で見てくれる彼らに。

何と言って、感謝を伝えたら良いのだろう。

「…ありがとう」

許されるはずのない罪が、ほんの少し、軽くなった気がした。