──────…俺は、前の俺…二十音の後に生まれた人格。

だから、シルナと二十音の間に、何があったのか、知る機会はなかった。

今日、初めて知ったのだ。

自分の身体の中に、禍なる神…邪神がいることも。

まぁ…朧気ながら、「何かがいる」ことは知っていたが。

シルナと二十音が、切っても切れない絆で結ばれていること。

シルナが、二十音を心から愛していること。

一番シルナと長く一緒にいたからこそ、俺はそのことをよく知っている。

そんな俺が、何でシルナを責められるだろう。

シルナがどんな選択をしようと、何を企んでいるのだとしても。

他の誰もが、シルナを憎み、恨み、杖を向けたとしても。

どんなに、シルナが間違った選択をしようとも。

俺は、シルナの味方をする。

いつだって。

だが、幸いなことに…。

「…シルナを恨む奴は、一人もいないみたいだな」

この場にいる誰もが、シルナの裏切りを受け入れていた。

誰もが、シルナに救われた。

そんなシルナを、どうして憎むことが出来るだろう。

「そんな…」

皆、怒髪天突いて怒るに違いないと思っていたらしく。

シルナは、呆然として俺達を見つめていた。

「私は君達を騙して…。裏切って…」

「…馬鹿、まだ分からないのか」

ここに、あんたを恨む奴は一人もいない。

「仲間なんだよ、俺達は。誰もシルナを恨んじゃいない。むしろ、感謝しかしてないんだ」

シルナがいなかったら、誰もここには立っていられなかった。

そんな連中ばっかりなんだからさ。

俺も含めて。

「例えそれが演技なのだとしても…シルナは、それだけ人望を積んできた。少なくとも、この場で誰一人、シルナの為に命を落とすことを躊躇わないほどに」

たった一人、長い間ずっと。

世界を一人で背負い続けて。

死者の呪いを、宿命を、使命を、一人で背負い続けて。

辛かったろう。苦しかったろう。寂しくて堪らなかったろう。

そんなシルナが、唯一出会った温もり。

それを奪う権利が、誰にあるのだろう。

愛する者を守りたいのは、誰だって同じだ。

だから。

「…一人で背負わなくて良いんだ。重いなら、辛くて寂しいなら…俺が、俺達が、シルナの傍にいるから」