…まさか。

…身体の中に邪神を宿して、正気でいられるなんて。

化け物か、この子は。

邪神の依り代、どころではない。

二十音は、逆に邪神を飼い慣らそうとしているのである。

「そんなことが…」

「…しーちゃん…」

二十音は、掠れる声で私を呼んだ。

身体の中で、自身の魔力と邪神の魔力がぶつかり合って、酷い苦痛を味わっているに違いないのに。

それなのに、二十音は安心しきった目で私を見ていた。

しーちゃんが、傍にいるから大丈夫。

そうとでも言いたそうな目だった。

「…君は、どうしてそんなに私を信用出来るんだ」

…そんな目で、私を見ないでくれ。

「私は君を騙しているんだ。利用しているんだ。君に邪神を降ろして、依り代の君ごと殺そうとしてるんだ」

私は、汚い人間だ。

「君をあの地下牢から救い出したのは、そういう理由なんだ。私はただ、邪神を殺す為に君を利用して…」

己の使命の為なら、何でも利用し、騙し、平気で裏切る。

そんな人間を、どうして君は。

「…しーちゃん」

二十音は、苦しみながらも無邪気に笑って。

私の手を、ぎゅっと握った。

「…一人にしないよ」