運命のその日。

何も知らない二十音は、いつものように無邪気に私に甘えてきた。

「しーちゃん」

「…二十音…」

「しーちゃん、あげる」

二十音は、シロツメクサで作った花冠を私に手渡してきた。

この花冠は、私が作り方を教えてあげたものだ。

「…ありがとう」

私が微笑むと、二十音は太陽のように笑って、そして私の胸に顔を押し付けて、嬉しそうにぐりぐりとしていた。

…あぁ。

私は今から、この愛らしい子を、この手で殺さなければならないのか。

その罪は、一族の無念を裏切ることと、どちらが重いのだろう。

「…二十音」

「…?」

「…ごめんね」

未練を断ち切るように、私は二十音に、神降ろしの魔法をかけた。

爆発的な魔力が、依り代となった二十音に注ぎ込まれた。

「あっ…が…!」

胸を押さえて苦しむ二十音の目から、黒い涙が溢れ落ちた。

罪悪感など覚えるな。

涙など流すな、シルナ・エインリー。

それが、お前に託された使命なのだ。

二十音の中に、あの忌々しい邪神が憑依した。

だが、長くは持たないだろう。

私の予想では、二十音は半日とたたないうちに、邪神に身体を侵食されて、邪神そのものと成り果てる。

そうなる前に、今すぐ依り代ごと…。

しかし。

「う…うぅぅぅぅ…」

「…!?」

「んんん…っ…」

二十音は、邪神に呑まれてはいなかった。

それどころか、自分自身の魔力で、邪神を封じ込めていたのである。