何だか、おかしな感じがするなぁ、とは思っていたのだ。

でも、まさか白昼堂々現れるとは思っていなかった。

「…」

少しだけ寮のベッドで寝て、目を覚ましたら、枕元に男が立っていた。

全く見知らぬ男だ。

制服を着ていないから、多分イーニシュフェルト魔導学院の生徒ではない。

それどころか…人間ですらない。

「…夜這い?」

夜じゃないけど。

彼は私の野次には乗らず、ただ私をじっと見つめ。

「…お前が、ヘルヘイムの見初めた魔導師か」

と言った。

ヘルヘイムの…。懐かしい名前だね。

「あなたも、『禁忌の黒魔導書』なの?」

彼から感じる邪悪な魔力。

それは、『禁忌の黒魔導書』のものだ。

そして、彼はあっさりとそれを認めた。

「そうだ。同志達は皆シルナ・エインリーとその手先に敗れ、最早、残るはこの一冊のみ」

そうなんだ。

『禁忌の黒魔導書』も大変なんだね。

「その残りの一冊のあなたは、何をするの?大人しく自首しに来たの?」

もしそうだとしたら、こんなに有り難いことはない。

私達を煩わせている当面の問題が、綺麗さっぱり解決する。

今日は私も頭痛が酷いし、面倒なことには巻き込まれたくない。

と、思っていたのに。

そう簡単には行かないようで。

「いいや。お前を利用しに来た」

「あなたも、ヘルヘイムと同じことをするの」

「お前を使えば、シルナ・エインリーに対する人質にもなる」

成程。確かに。

「でも、私はあなたに利用されるのは嫌だよ」

「お前に拒否権はない。無理矢理にでも…お前の中に侵食する」

そう言うなり、『禁忌の黒魔導書』は殺気を迸らせた。

私も応戦しようとしたが、あまりの頭痛の酷さに、思考がまとまらなかった。

まずは助けを呼ばなくては。

いや、その前に私の魔法で…。

痛む頭で必死に考えている隙に、禁書は私に肉薄した。

それを避ける前に、彼は私の胸に手を突き刺した。













その瞬間。