「…あの、アトラスさん」

「な…何だ?」

「何でも…言いたいことがあったら言ってください。嫌なことでも…。私、傷つけられるのは慣れてますから。何でも言ってくれて良いですよ」

私は、そう強がってみせた。

彼に傷つけられたら、きっと深く深く傷ついて、何日も立ち直れないだろうけど。

それは言わなかった。

「そんな…!お前を傷つける訳ないだろ!むしろ逆だ。俺は、お前をずっと守りたいと…ずっとお前の笑顔を見ていたいと…」

「え…?」

「あっ、う…。それは…だから…その」

「…??」

こんな煮え切らないアトラスさんを見るのは、初めてだ。

私はどうするべきなんだ?

多分、何か言いにくいことを言おうとしてるんだろうけど…。

これはもしかして…その…。

…厚かましいことを、期待しても良いのだろうか?それは許されて良いのだろうか?

「灰かぶり」の、「薄汚いアルデン人」である私が?

そんな馬鹿な…。

「アトラスさん…?」

「…うぅ…。その…だから、シュニィ…」

「…」

私は、アトラスさんの手に自分の手を重ねた。

神様。

私、今まで何も我が儘は言わずに生きてきました。

だから、今、たった一つだけ…望んでも良いですか?

「勇気を出して…頑張って、言ってくれませんか」

「シュニィ…」

私が重ねた手を、アトラスさんはゆっくりと握り締めた。

今回は、ちゃんと力加減してくれていた。

「…試験、終わったから…もう、会う口実がなくなるだろ?」

「…そうですね」

「でも…俺は、それは嫌なんだ。これからも一緒にいたい。ずっと…一生、一緒にいたい。お前が好きだ」

「…そう、ですか」

私は、彼の肩にもたれかかった。

誰かにこんなことをするのは、初めてだった。

凄く温かくて、そしてこれまで感じたことがないくらいに…。

…幸せ、だった。

「…私もです」