「何がですか?学院長」

「私のせいで、まだ子供の君に、家族を捨てさせてしまったこと…」

…あぁ、そのことか。

学院長は、それを酷く気に病んでいるようだった。

あれ以来、家族とは一度も連絡を取っていない。

向こうからも、こちらからも。

多分、お互いに一生連絡を取ることはないだろう。

「…寂しくないかい?王都に一人で…」

「寂しくない…と言えば、嘘になるかもしれませんね」

ここに、僕の親類は一人もいない。

だけど。

「始めから、僕に家族はいませんでしたから」

寂しいも何もない。

最初から、僕は一人ぼっちだった。

失う者なんて、何もなかったのだ。

「でも…弟さんのことは…」

「…そうですね」

弟のことだけは、少し心配ではある。

僕がいなくなって、弟の面倒を誰が見ているのか。

風の噂で聞くところによると、施設に入れられた、とのことだが。

真偽のほどは分からない。

「…僕も、それほど弟に情があった訳じゃありませんから…」

冷たいと言われるかもしれない。

でも、正直弟から手を離して、僕はホッとした。

そして、もう二度と関わりたくないと思った。

弟だけでなく、家族とも。

だけど学院長は、まだ13だった僕に、そんな過酷な選択を強いてしまったことを、ずっと悔いているようだった。

「…あなたには感謝しかありませんよ、学院長」

「…いつか、家族と和解出来る日が来ると良いね」

本当に、そんな日が来るのだろうか。

もし来るのなら、それで良い。

来ないのだとしても、それはそれで良い。

僕は自分の夢を叶えた。

あとは、夢を叶えてくれた学院長に、恩返しをするだけだ。