「彼は魔導師として、素晴らしい素質を持っています。入学試験時に確信しました。是非、イーニシュフェルト魔導学院に入れてあげてください」

学院長は、真剣な眼差しでそう言った。

僕の為に、こんなに真剣になってくれたのは、この人が初めてだ。

「だから、余計なお世話です!」

母はいきり立って、怒鳴り付けた。

学院長との喧嘩が始まりやしないかと、僕ははらはらしていた。

「うちの子が何処に進学しようと、うちの勝手でしょ!イーニシュフェルトだか何だか知らないけど、うちの子をインチキ魔導師にするつもりはありませんから!」

「…」

インチキ魔導師。

伝説の魔導師とまで言われるシルナ・エインリー学院長にとっては、この上ない侮辱の言葉。

これにはさすがの学院長も、気を悪くするはずだ。

僕は何とか母の失言をフォローしようとしたが、学院長は全く気にする様子はなく。

むしろ、平然としていた。

「…イーニシュフェルト魔導学院じゃなくても良い。せめて、魔導師養成校に通わせてあげるべきです。彼の未来の為に」

「お断りします。うちの子は、弟の面倒を見なきゃならないんです。だから魔導師になんてならなくて良い。ずっとうちにいて、弟の世話をしてもらわなくちゃ」

とうとう、母は体裁を取り繕うこともなくそう言った。

偽らざる、母の本音だった。

父は、横でどうでも良さそうに聞いていた。

父の考えも、母と同じのはずだ。

僕がいなくなったら、弟の面倒を見る者がいなくなる。

それは都合が悪い。だから、家を出ていってもらっては困る…。

我が家の隠された黒い部分を聞いて、学院長の顔が険しくなった。

「…弟さんの面倒を、エリュティア君が?」

「うちの次男は、障害児なんです。介助がなきゃ生活出来ないんですよ」

「それは大変ですね。でも、弟さんの面倒を見なければならないのは、エリュティア君ではなく、あなた方ご両親なのでは?」

ずっと言いたくて、言えなくて、言っても届かなかった言葉を。

学院長は、あまりにもあっさりと口にした。

あまりの正論に、両親も少し怯んで。

そして、こう言い訳した。

「私達は…まだ小さい娘がいるから、娘の面倒を見なくちゃならないんです。次男まで手が回らないんですよ」

「だから、エリュティア君を家に縛り付けて、彼を弟さん専属の介護士にすると?」

「そ、そんな言い方…!」

「何か間違ったことを言ってますか?」

このとき、学院長は怒っていた。

口調こそ冷静だが、目は怒りに燃えていた。