まさか自分の家に、イーニシュフェルト魔導学院の学院長が訪ねてくるとは。

一体何があって、そんなことになったのか。

頭がパニックになりながらも、僕は学院長に家に上がってもらった。

「いやぁ、ごめんねいきなり訪ねてきちゃって」

「い、いえ…」

シルナ・エインリー学院長と言えば、魔導を志す者なら誰もが知る、伝説の魔導師に等しい。

こんな偉い人が、僕の目の前にいる。

緊張して、言葉が出てこなかった。

「…それで、エリュティア君」

「は、はい」

「つかぬことを聞くけど、エリュティア君は春から、何処の学校に進学するのかな」

「…!」

何処の学校に…って。

それは…。

「…地元の、公立中学校に通うつもりです」

僕は俯いたまま、そう呟いた。

あまりの悔しさと無念に、涙が溢れそうになった。

「そこには、魔導師養成クラスはあるのかな」

「…ありません」

「…つまり、魔導師になる道は諦めるってこと?」

…地元の公立中学校に…魔導師養成校じゃない、普通校に通うということは、そういうことだ。

「…」

でも、僕は答えられなかった。

魔導師になる夢を、まだ捨てたくなかったから。

「…君は優秀な成績で、イーニシュフェルト魔導学院に合格した。それなのに、直前になって入学辞退…。ラミッドフルス魔導学院を選んだのかと思って調べたら、それも違う。これはおかしいと思って…話を聞きに来たんだ」

学院長は、静かにそう言った。

…まさか。

わざわざ入学辞退者を心配して、家まで訪ねてきてくれるなんて。

「君のその様子だと…イーニシュフェルトを入学辞退したのは、君の本意ではないんだね?」

「…はい」

消え入りそうな声で、僕は答えた。

そうだ。僕はイーニシュフェルト魔導学院に入りたい。

その為に必死に頑張って、そして報われたはずだったのだ。

それなのに。

身勝手な両親のせいで、将来まで台無しにされようとしている。

「理由を聞いても良いかな」

「…両親に…反対されて…」

「ご両親に…。入学試験のときは反対しなかったの?」

「まさか、本当に合格するとは思っていなかったみたいで…」

「成程…」

学院長は、顎に手を当てて少し考え。

そして、僕に向かってこう尋ねた。

「…君は、イーニシュフェルト魔導学院に来たいかい?」

「…!それは…」

「正直に言いなさい。イーニシュフェルト魔導学院に入って、魔導師になりたいかい?」

この質問に、答えてはいけない。

だって僕は逃げられなくて。この家にずっと閉じ込められて…。

夢なんて見ても、また絶望に突き落とされるだけで…。

でも僕は。

それでも…。