土壇場になって、両親が僕の進学に反対したのである。

まだ13歳なのに、王都で寮生活なんて許さない、と。

僕にとっては、青天の霹靂だった。

両親にとっても、そうだったに違いない。

まさか、今頃になって反対するなんて。

だったら、入学試験を受ける前に反対すれば良いものを。

思えば両親は、まさか僕が本当にイーニシュフェルト魔導学院に合格するなんて、思ってもみなかったのだ。

両親は僕の成績表なんて、まともに見たこともなかったのだし。

どうせ受かるはずがない、とたかを括っていたから、試験でもなんでも勝手に受ければ良い、と放置していた。

それなのに、本当に合格してしまったものだから、途端に焦り出したのだ。

表向きの理由は、「まだ13歳なのに、一人で王都に寮生活なんてさせられない」という、子を心配する親のそれだった。

でも、本当の理由は違う。

僕が家を出てしまえば、弟の面倒を見る者がいなくなってしまう。

それが、言わずと知れた両親の本音だった。

その頃の弟の様子は、ますます酷くなっていた。

力で押さえつけられる年齢を越え始めていて、激しい癇癪を起こしたときは、とてもではないが近寄れなくなっていた。

今まで、まともな療育を受けさせてもらえなかったのも、原因の一つだったのだろう。

今までずっと弟の世話を押し付けていた両親は、弟をどう世話したら良いのかなんて、全く知らなかった。

今更療育なんて一から始められないし、そもそも両親には、弟と向き合う気なんて全くない。

施設に入れようにも、お金がかかるし、弟のように重い障害を持つ子供を受け入れてくれる施設は、なかなか見つかるものではない。

見つかったとしても、既に定員が一杯になっていて、入所は叶わない。

両親はこのまま僕に家に残ってもらって、これからも弟の面倒を見続けてもらわなければ困るのだ。

だからこそ、最もらしい理由をつけて、僕を王都に行かせなかった。

入学金も、学費も払わないと言った。

このまま家にいて、地元の公立中学校に行くように、と。

僕は、激しく抗議した。

あれほど努力して、天下のイーニシュフェルト魔導学院に合格したのに。

百歩譲ってイーニシュフェルト魔導学院を諦めるにしても、地元の公立中学に行けとはどういうことだ。

僕の地元の公立中学に、魔導師養成クラスはなかった。

つまり、魔導適性のない、普通の子供が通う学校なのだ。

これまでずっと、魔導師になる為に勉強してきたのに。

今更普通校になんて行ったら、魔導師になる夢は、閉ざされてしまう。

それだけは、絶対に嫌だった。

しかし、両親は僕のそんな抗議を聞き入れなかった。

両親に魔導適性はなく、魔導師なんてインチキ占い師としか思ってない二人に、僕の夢なんて理解出来るはずがなかった。

それどころか、「いい加減怪しい勉強をやめて、まともな進路に進め」と叱られる始末。

両親にとって魔導師になる夢は、まともな進路ではないらしい。

入学金も学費も払ってもらえないのなら、とてもではないがイーニシュフェルト魔導学院には入れない。

僕は泣いた。泣き続けた。

ようやく夢が叶うと思ったのに。

ようやくこの家から解放されると思ったのに。

その為に、血の滲むような努力をしたのに。

僕のことなど、微塵も愛してなどいない両親という鎖が、僕をこの家に縛り付ける。

その鎖にがんじがらめにされた僕は、一生、ここから逃げられないのだ。

僕の夢は、運命は、未来は、閉ざされてしまった。

絶望の淵に追いやられた僕のもとに。

…あの人が、やって来た。