その男は、僕の人生に新たに入り込んできた重要人物だった。

最初はそれほど重要な人間だとは思っていなかった。

でも、母が連れてきたその人は、初対面の僕に対して妙に馴れ馴れしく。

母も、いつも不機嫌な顔をしていたのに、その男といるときだけは、不気味なくらいに楽しそうだった。

僕の機嫌を取ろうとして、玩具やお菓子まで買ってきた。

僕が喜ぶと思ったのかもしれないが、これまで、そんなものを一度ももらったことがない僕にとっては、喜ぶどころか困惑するばかりだった。

その男の人と、母と僕と三人で、遊園地や水族館にも行った。

そんなところに連れていってもらったのは、生まれて初めてだった。

だけどやっぱり、僕は素直にそれを喜べなかった。

一体どういう風の吹き回しなんだろう、と思った。

この男の人は、一体誰なんだろう。

彼は母の店の常連客であり、母の恋人であり、そして後に僕の義理の父親となる人物だった。

当時の僕は、そんなことはつゆほども教えられていなくて。

ただ、不気味なほど機嫌の良い母と、不気味なくらい機嫌を取ろうとしてくる男の人に、困惑するばかりだった。

そしてそんな生活が半年ほど続いた後。

母はその男の人と結婚し、僕達母子は名字が変わった。

今まで住んでいたアパートも引き払って、新しい父親の家に引っ越した。

僕は転校を余儀なくされ、ようやく慣れてきていた学校からも引き離された。

何もかも、僕の意思とは関係のないところで決められたことだった。

僕には、賛成する権利も、ましてや反対する権利もなかったのである。