二人で歩きながら、エヴェリカは女性のエヴェリカとして、俺に感謝の言葉を告げた。

「サナキ君、本当にありがとう」

「上手く行ったのか?家族との話し合いは」

「うん…。お陰で、ちゃんと受け入れてもらえそうだよ」

それは何より。

「良かったじゃないか」

「うん、本当に良かった。君と、それからエインリー先生のお陰だよ」

シルナは特に何もしてないと思うけどな。

スルメイカ食ってただけだ。

「いくら感謝してもしきれない。君のことは、生涯忘れないよ」

「おいおい…。まるで今生の別れだな」

いくつだと思ってるんだよ。

俺はともかく、エヴェリカはまだ20にもならないだろうに。

「別れたくはないけど、でも、今みたいには会えなくなると思う」

「え?」

どういうことだ?

「転校することにしたんだ。第三帝国騎士官学校は、男子校だから」

「あ…」

そうか。そうなんだっけ。

女として生きる以上、男子校にいるのは苦痛以外の何物でもなかろう。

「学校にも事情を話して、共学の騎士官学校に転校しようと思うんだ」

「そう…。帝国騎士になるつもりはあるんだ」

「うん。折角ここまでやって来たから」

彼女は、性別はともかくとして、未来の帝国騎士として相応しい実力は兼ね備えている。

彼女の選択は、間違っていないだろう。

「今までみたいには会えなくなると思うから、今のうちに、あなたに感謝を伝えたくて。…ありがとう、本当に」

エヴェリカは、心から嬉しそうな顔でそう言った。

…なんて清々しい、晴れやかな笑顔だろう。

このまま彼女を帰してあげることが出来たら、どんなに良かっただろう。

でも。

それは、出来ないのだ。

「…なぁ、エヴェリカ」

「何?サナキ君」

「お前、いつまで人間の振りしてるつもりだ?」