こいつが、エヴェリカの糞親父。

「お前か。エヴェリカをここまで追い詰めたのは…!」

この場にシルナがいたら、間違いなく慌てて止めに入っただろう。

我ながら、それほどの剣幕だった。

「心身共に跡取り息子じゃなきゃ愛せないってか?あんたが愛してたのは誰だ?え?エガルテか?それとも跡取りの一人息子か?」

男じゃないと愛せないってのか。

男じゃないと大事に出来ないってのか。

男じゃないと価値がないってのか。

俺には、どうしても許せなかった。

シルナは、俺が「誰」であろうと、俺を拒絶したりはしなかった。

シルナだけじゃない。聖魔騎士団の人々は皆、俺が何者であろうとも、俺を受け入れてくれた。

だからこそ、許せなかったのだ。

「気持ち悪いと思うのは仕方ない。突然言われたんだからな。受け入れられないのも仕方ない。でもエヴェリカは、あんたの子だろ?条件がなきゃ自分の子が愛せないのか、あんたは!」

「さ、サナキ君…!」

エヴェリカの父を容赦なく責めまくる俺に、エヴェリカが制止しようとした…。

…そのとき。

「…済まなかった、エガルテ」

「…え?」

俺に散々責めまくられたエヴェリカ父は、エヴェリカに向かって頭を下げた。

な、何を…。

「お前の気持ちを考えず、酷いことを言ってしまった。あれから、冷静になって考えたんだ」

「…」

「突然のこと過ぎて、今は、まだどう受け止めたら良いのか分からない。その子の言う通り、跡継ぎだから大事にして育ててきたことは…否定しない」

そのときの、エヴェリカの顔。

文字通り、捨てられた子供のそれだった。

しかし。

「でも私は、姉達や妹も同じように愛している。性別がどちらであろうと、私は自分の子を愛している」

「…!父上…」

「時間はかかるかもしれないが、私はありのままのお前を受け入れる。本当に…よく打ち明けてくれた。今まで気づいてやれなくて、済まなかった」

…なんという。

素直な親父だ。

貴族の当主というのは、もっと頭がガチガチに固いものかと思っていたのに。

こんなに寛容とは。

「でも…父上。わた、いや…俺がいなかったら、跡継ぎが…」

「跡継ぎなんて、養子を取るなり、婿を取るなりすれば良い。このご時世だ。何なら女系の当主でもかまわない。いくらでも方法はある」

「…!」

「帰ってきてくれ。本当の自分として生きて良い。お前は、私の子なんだから」

「っ、父上…!」

二人は、涙ながらに抱き合った。

…散々責めまくって、悪いことをしてしまったな。

この親子なら、きっとこれから、上手くやっていけるだろう。

「…良かった」

お前はちゃんと、親に愛されてるんだな。