──────…あぁそうだ。あんたの気持ちなんて分からない。

…そう言えたら、どんなに良かっただろう。

自分の中に、自分じゃない他の誰かがいる。

おまけに俺は、どれが本物なのか、誰がオリジナルなのか、それすら分からないのだ…。

「…誰かに、理解してもらう必要なんてない」

「…え?」

理解出来ない、気持ち悪い、そう思われてしまうのなら、それは仕方ない。

人の気持ちは、簡単には変えられないのだから。

だけど。

「…生きろよ。死んだからって、誰かに何かを理解してもらえる訳じゃないだろ」

「…それは…だって…」

ありのままの姿で生きられないなら、この世に価値なんてないって?

確かに、この世には何の価値もない。

だけどお前には、価値があるだろ。

生きる価値のない世界に、生きる価値のあるお前が生きるんだよ。

「…死ぬんなら、いつか胸を張って、『私はエヴェリカだ』って堂々と死ね。それまでは生きろ。男だろうと、女だろうと、自分は自分なんだから」

「…!」

そう言うと、エヴェリカは涙を溢して崩れ落ちた。

…泣かせてしまった。

でも、俺の言葉が心に響いたようだ。

すると、そのとき。

「…エガルテ!」

エガルテ…じゃない、エヴェリカによく似た男性が、息を切らして走ってきた。

…何者だ?こいつは。

「…!父上…」

エヴェリカは泣き崩れながら、そう呟いた。

…父上だぁ?

つまり、こいつがエヴェリカの父。

エヴェリカの性別違和を、認めることもなく踏みにじった糞野郎か。

そう思うと、俺は自分を止められなかった。