「…サナキ君…」

サナキ・エインリーだった。

彼が、そこに立っていた。

「な、何でここに…」

サナキ君は私の質問を遮るように、言葉を重ねた。

「何をしようとしてんの?」

「…それは」

とてもではないが、答えられなかった。

「…まさか、自殺しようとしてんじゃないよな?」

「…」

「…この馬鹿」

サナキ君に、軽い拳骨を食らった。

痛かった。

その痛みに、あぁ、自分はまだ生きてるんだと思った。

「死んだって、何の解決にもならんだろうが」

「…サナキ君には、分からないよ」

「あ?」

「サナキ君には分からないよ、私の気持ちなんて!」

心は女なのに。

自分は自分を女だと思ってるのに、皆が私を男として扱う。

私の身体は、私の意思に反して男のものなのだ。

このちぐはぐさが、どれほど辛くて苦しいものか。

そしてこの思いを、今まで誰にも伝えられなかった。

家族さえも、私を受け入れてはくれなかった。

この辛い気持ちが、どうして他人に分かるものか。

「本当の自分と、見かけの自分が別物なんて…。こんな惨めな気持ちが、サナキ君に分かる?理想と現実は違うんだよ。皆気持ち悪いって思ってるんだよ!」

サナキ君だって、本当はそう思ってるはずだ。

性同一性障害なんて、気持ち悪いって。

可哀想だって。

いつかの女の子がそう言ったように。

「何も分からない癖に、無責任なことを言わないで!」

「…何も…分からない…だって?」

サナキ君は、静かにそう言った。