「…」

家を飛び出した私は、大河にかかる橋の上に立って、その欄干から川を眺めていた。

…ここから飛び降りれば、楽になれる。

そう思ったからだ。

正直に言おう。

今まで、全く自殺を考えなかった訳じゃなかった。

人と違う自分。ちゃんと正しく生まれてこられなかった自分が、情けなくて仕方なかった。

私は女なのに。

私は女だと思っているのに。

どうして、私の身体は女じゃないの?

自分が憎かった。自分の身体が、堪らなく嫌いだった。

普段から、あんな可愛い服を着て歩きたかった。

髪を伸ばして、綺麗に結わえたかった。

今日はどんな格好をしよう、とクローゼットの前で悩んでみたかった。

誰かに遭遇することを恐れず、女の格好をして出掛けたかった。

男の子と恋だってしてみたかった。

本当の自分として、生きたかった。

エヴェリカとして、生きたかった。

私が求めるのはそれだけなのに、どうして叶わないの?

どうして、私を男だと言うの?

こんな理不尽、もう耐えられない。

このまま一生、本当の自分を隠して生きていかなきゃならないと思うと、死んだ方がマシだった。

…今度生まれてくるときは、ちゃんと女の子に生まれられたら良いな。

私はそう思って、橋の欄干に手をかけた。

そのとき。

「…エヴェリカ」





その呼び声に、私は思わず振り向いてしまった。