シルナの手管に嵌められ、いや。

シルナのカウンセリングのお陰で、エヴェリカはその苦しい胸のうちを、ポツポツと吐露し始めた。

本当は女として生きたいのに、男として振る舞わなければならない苦悩について。

そりゃあ、辛いに決まってる。

俺達には計り知れない苦労があったことだろう。

一通り話し終えてから、シルナは。

「そうなんだ…。本当に…大変だったんだね。いや、過去形じゃないね…。このままじゃ、きっとこれからも…これからの方が大変かもしれない」

「…はい」

貴族には、跡継ぎというしがらみがあるからな。

一生独身という訳にもいかない。

特に、男子…の、身体として生まれたのは、エヴェリカ…もとい、エガルテだけなのだ。

「家族に話すつもりはないの?どうしても…」

「…話そうと思ったことはあります。でも、そんなことはとても言えません…」

「そっか…。そりゃそうだよね…」

普通の家じゃない。貴族の家ともなると、体面もあるだろうし…。

あぁ、貴族制度というのは、なんと煩わしいのだろう。

そんなものなければ、皆もっと自由に生きられるだろうに。

「でもね、エヴェリカちゃん。本当の自分でいられないのは、辛いよ。ましてや、これから先、好きでもない女の子と結婚させられることになんてなったら…」

…悲劇だな。

それは最早同性結婚だ。

「人に見られないようにこっそり女の子の格好をして、それで満足なら、これからもそうすれば良い。でももし、それだけで満足出来なくなったら…何か、行動を起こさないと」

「行動…」

「…周囲の期待を裏切れないのは分かる。でもそれ以上に悪いのは…自分の心を裏切ることだよ、エヴェリカちゃん」

「…!」

…おい、シルナの奴。

良いこと言うじゃないか。さすが無駄に年を重ねただけのことはある。

やはり、エヴェリカをシルナのもとに連れてきたのは、正解だった。

ただ唯一怪しいのは、グレープジュース飲みながら、スルメイカ食ってるような奴の言うことがどれだけ信じられるか、だな。

そこは、気にしないでいてもらうことを期待しよう。